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Kids Return キッズ・リターンのmayaのレビュー・感想・評価

Kids Return キッズ・リターン(1996年製作の映画)
4.2
校庭自転車2ケツの「俺たち、もう終わっちゃったのかな」「ばかやろー まだ始まってねえよ」だけ知ってたんだけど、今回はじめてちゃんと見て、「そういう意味...!」と驚いた。今までの北野武だと、ぜったいそこスタートでどちらかがあっけない終わりを迎えると思ってたし、お決まりとしては絶対転落ヤクザとボクサーの対比になるものを、「お決まりなんて何するものぞ」とガン無視。2人は、「お決まりの流れ」から逃げ切ったんだ、とすごく晴れやかな気分でエンドロールを見た。だからこの曲調なのね...
それぞれの青春、それぞれの未来、それぞれが晒される社会の暴力の中で、誰かはきっとふっと風が吹いて火が消えるように死んでしまうのだろうと思ったけど、君か。よりによって君なのか。

「桐島部活辞めるってよ」が、高校当時これを見たことがなかった私としては斬新に見えて、かつなんて希望のない話をしやがるんだと苦しくなったものだけど、いや、こっちを見たかった...
北野武の若者に対する眼差しの優しさ。大人の世界は暴力にまみれ絶望的だけど、若者のその青さを、その一瞬を、ただ愛おしく見つめる視線。物語の語り手は基本的に経験を積んだ大人なので、これがなければただ絶望を若者に無責任に押し付けて嫌な気持ちにさせる物語になるし、やっぱりその眼差しにこそ北野映画が唯一無二たる所以があるんだよな...

ただ、一番強烈に残ったのは、ヤクザの組長に憧れて子分になった津田寛治が、自分は特別扱いされてると思ったのに、突然現場で殺人の凶器を渡されて、一言「お前これ持って警察いけ」=罪を被れという一言でサクッと消費されるところ。どんなに若者が憧れる「親分」だろうと、暴力をかさにきて権力を振るう大人の正体とはそういうものだ、という北野監督の一貫した姿勢がわかる。
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