半兵衛

拳銃を売る男の半兵衛のレビュー・感想・評価

拳銃を売る男(1953年製作の映画)
4.3
アメリカ製作なのに全編イタリアでの撮影、そして貧しさゆえに犯罪を犯した中年男と少年の逃避行というイタリアンネオレアリズモ的な題材と異色すぎる製作背景の中でクオリティの高い傑作に仕立て上げてしまうロージーの手腕に感嘆する。と同時に、後年ヨーロッパで傑作群を連発するロージーの予兆を感じさせる一作でもある。

無銭飲食で揉めて誤って店長を殺した男(ポール・ムニ)と同じ店で店長の目を盗んで牛乳を盗んだ少年の、一方は罪の意識から警察から逃れようとし一方は警察に追われていると思い込み逃走する二つの感情の交錯が、コミカルさとサスペンスを交えた奇妙に充実した世界に。そんな中で不器用な二人が徐々に親しくなり、疑似親子の関係になっていく姿にうるっとくる。しかし所詮それは犯罪という危うい繋がりで芽生えた一時の関係でしかないことを、彼らに聞こえる子供の母親と警察の声で露呈させるのが上手い。

戦争により人生を狂わされ仕事も住むところも失ったポール・ムニの、犯罪者になっても微かな希望にすがり警察から逃げようとする姿が切ない。そんな彼が、警察から逃げ切れる手前で一緒に逃げていた子供の危機を救うことを優先しせっかくのチャンスを無駄にするのに泣きそうになる。そこから別れる二人の最後の会話に涙腺崩壊。

あと登場人物の背後にある戦争の影を直接的でなくさりげない描写で示唆する演出も見事で、ポール・ムニの持つ拳銃、子供の家庭に父親がいないことや子供がポール・ムニに極まって叫ぶ台詞、主人公二人が最後に隠れる部屋に住む女性に飾られている写真が全編に登場する瓦礫とともに戦争の傷痕で苦しむ主人公たちの世界を暗く彩る。

ポール・ムニが隠れた部屋の住人で自分を警察に売ろうとした女性を何重にわたって丁寧に縛る様子は妙にエロチックで困惑するが、それを目撃する少年の無邪気な警察との追いかけっこの夢想に水を差し現実に引き戻す流れに説得力を与えている。

当然の結末を迎えたポール・ムニに対してショックを受け項垂れる少年が、友人の一言で元に戻るラストも◎。それでも彼が渡してくれたある道具を持っている限りこの出来事を忘れないだろう。
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