odyss

クロッシングのodyssのレビュー・感想・評価

クロッシング(2009年製作の映画)
3.0
【彼らは苛立つ、映画も苛立たしい】

途中までの印象は、アップが多いなということ。やたら人物の顔ばっかり追っていて、物語が主観的な感覚で進んでいくような感じ。三人の主人公の、それぞれ一筋縄ではいかない内面を表現したものとも受け取れるが、正直言ってちょっと辟易した。

三人の中ではイーサン・ホーク演じる麻薬捜査官が分かりやすい。病弱の妻と育ち盛りの子供たちを抱えて、もっと環境のいい住宅に移りたいのだが下級警察官の給料じゃそれも叶わない。麻薬の取引現場にはしばしばカネが散乱している。誘惑が強い職場だと分かる。

他方、リチャード・ギア演じる事なかれ主義で退職間近のヴェテラン警官はどうだろう。ありそうな設定ではあるけど、なぜその彼が退職間際になって若手をかばったのか、なぜその後危険を冒してまで誘拐された女性を救おうとしたのか、動機がよく分からない。

ドン・チードル演じる潜入捜査官もどうか。たしかに、ギャングにだって人間味のある奴はいるし、逆にエリート警察官には鼻持ちならず自分の都合ばっかり考えている者もいる。企業なんかだって同じことだろう。そういう矛盾に満ちた人間模様の中でチードルがもっと壊れていくような筋書きであれば説得性は増したのではないか。

3人の下級警察官を追っているためかやや時間的に長めになっているけど、もう少し削って、しかし筋書きを工夫することで彼らの置かれた立場は描けたのではとも思う。いや、長めの映画を見て苛立つことも3人の苛立たしい内面を理解するための手段なのか。苛立たしい人生がなかなか先に進まないように、この映画もなかなかすっきりとは進んでくれない。そこをどう見るかが評価の分かれ目になるのだろうか。
odyss

odyss