このレビューはネタバレを含みます
「マジック」つながりで監督リチャード・アッテンボロー作品の過去最大級のヒット作を視聴。もともとは人気ミュージカルを映画化したもので1985年公開。
場面はほぼステージのみ。総勢400名程度の志願者の中からオーディションで最終的に男性4名+女性4名が選ばれる。ただし役柄は「コーラスライン」。主演のバックで踊る「その他大勢」に過ぎない。
しかしそれでも有名なブロードウェイ・ミュージカルの出演キャリアを得ようと、あるいはここから足がかりにしようと必死に参加者はアピールをする。
冒頭から巨大都市NYを俯瞰で映してゆく。このNYでミュージカルで端役であっても役柄を得ることは世界に通じるイメージが湧く。
しかしこのオーディションに突如闖入してくるのがキャシー(アリソン・リード)で、このオーディションの責任者、振り付けと演出を任されているザック(マイケル・ダグラス)にオーディション最中にも関わらず、呼び出してみたりオーディションを受けさせろと非常識な要求をする。
ザックとキャシーは昔演出家とダンサーの恋仲であり、ある日突然キャシーが家を出てしまい。それ以来の再会だという。しかも彼女は自己の振る舞いが迷惑であると承知の行動らしい。そして「仕事が欲しい」と語る。
ザックはザックで、今は盛りを過ぎたとはいえ、充分これまで主役を張ってきたキャシーを今更コーラスラインなどに採用する気はさらさらない。ダンス指導のラリー (テレンス・マン)も二人の旧知の仲であり、間に挟まれて当惑している。
本作は冒頭からオーディションシーンだけで構成されており、その経過でミュージカルが繰り広げられダンスと歌が交錯しながら進んでゆく。
とにかくダンスのセレクションではバッサバサに落としてゆくザックは20人程度に絞られた時点で「皆の真の姿が見たい」と自己独白を求める。そこでの各自自己紹介では自虐的に振る舞ってみたり、アピールの度が過ぎる演者もいるが、ここでのザックはそれまでと逆で「良い部分を見つけ認めてゆく評価」をしてゆく。
あくまでここでは公私を混同しない「プロ」の説得力を描写している。
しかしその経過にも仕事を求めてきたキャシーが絡んでゆく。その彼女へザックはやはりプロとして容赦なき「ダメ出し」をする。
そして最後のセレクションでは順に名前を読み上げて前に出してゆく、当然合格者が呼ばれ前に出ていると皆は思い表情は悲喜こもごもだ。しかし名前を呼び終わったところでザックは「では前のメンバーはお疲れ様」と告げ、皆の表情が逆転する——そこにキャシーも含まれている。
物語で唯一の「どんでん返し」と言って良いだろう。
そして、本作のエンドロールは選ばれた8人のコーラスラインから始まり、冒頭で落とされた者まで含んだ全員のダンスと大団円を迎えて終わる。この手法は以降様々な方面で模倣されている、見事な演出だ。
強引にまとめると「端役であるコーラスラインのセレクションにも凝縮された人間のドラマがある」——それは選ぶ側の人間にも——という事なのだろう。
1985年の作品だが、やはりリズム感がその時代のものと感じてしまう。今観るとややダレて感じてしまうと思う。
「実力主義」と言えば勇ましいが、現場はこんなにも残酷である事を知らされる。それでも次から次へとブロードウェイ・ミュージカルへ焦がれる者達が今でも引きも切らず門戸を叩いている。
この名作は上映から時間が経っているせいもありやっとDVDにはなったもののblu-rayでは殆ど出回っておらず、サブスクにも登場していない。視聴にそれなりに苦労をするのが残念だ。