櫻

ビフォア・サンライズ 恋人までの距離の櫻のレビュー・感想・評価

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今その時を迷いも悩みもしながら生きているからこそ、煌々とエネルギーが外側を照らす。そのことを見つけてもらおうとしなくても、同じ光を放つ者同士なら、引き合う星々のように見つけられる。それをもしも運命と呼ぶのなら、そのようにして生きている誰しもにこんなひとときが訪れることがきっと約束されていたのなら。やがて夢のように過ぎていくのもまたせつない運命だとしても、そのひとときは永遠のように心に刻まれるだろう。わたしが本作を見返すたびに夢を見る心地になるのと同等に。

お互いの奥底へと潜っていくような言葉の交わり。居住地も生育環境もなりたい未来も世界に対する考え方もまったく違うのに、その違いさえも興味深くて愛おしくてたまらないのだと、ふたりのまなざしや仕草や言葉にあふれていた。個として生きてきたその温度を感じながら、別の宇宙を持ち寄るような時間の尊さと喜び。誰かをひとつひとつ紐解くように知ることの楽しさ。互いの違いを持ち寄ってできあがるうつくしいアンサンブル。わかりたいと思うことは相手に近づくことではなくて、まったく違うのだと知らされることなのだという一抹のさびしさ。そのすべてをいつか味わいたい。わたしはきっと、こんな時間を誰かと過ごしてみたい。そのために、わたしはわたしとして、みっともなくても辛くても生きていこうと思う。
櫻