空きっ腹に酒

ビフォア・サンライズ 恋人までの距離の空きっ腹に酒のレビュー・感想・評価

5.0
人生ってタイミングがすべてだとつくづく思うんですよ。最近は、寒さのせいで意識が内側へ内側へと向かっていたうえに、あまりひとと会うこともなく、今日なんて楽しみにしてた元シェアメイトとの約束も家族の都合でリスケになって、ああなんだかなあって思ってたんですよ。ほんの僅かの期間でも、ひとと喋ってないとわたしはひととの喋り方を忘れてしまう。どんな会話をしてたっけ、普段の自分ならこういう時どんな風に話すんだっけって、自分に問うてしまうくらいに。たとえばすっかり梅が咲いてもう春も近いなあって感じたこととか、たとえば憧れの女性に、似合うねって言われたからまた髪色をピンクにしたこととか、たとえば新しい仕事に挑戦しようとアクションを起こしたこととか、どれもとても些細なことなんだけど、わたしの中ではそれなりに大事なことばかりで、でも最近は、それをひとと共有出来ていなくて。そんなタイミングで、今日、まずはゴーストトロピックを観て、夜の一期一会に触れて、わたしは心踊ってしまい、すっかり帰りたくなくなって、で、この映画を観に渋谷から大森へと移動したんだけども。なんかもう、どうしようもなく泣けてしまったよ。ひとが恋に落ちる瞬間をこの目で見たことはもちろん、好きなひとと喋り時間を共有することの楽しさ、美しさにわたしのこころは満たされた。手相を見てもらったり、川辺で即席の詩を詠んでもらったり、誕生の踊りを見たり、何をしようと特に決めるでもなく行く先々で人々と出会い、時間を共有して、わたしはこう感じた、僕はこう感じた、って話し合って。これって大好きなひととの最高の過ごし方じゃない?こっそり盗んだ2つのグラスで赤ワインを飲んで、芝生の上でキスして抱きしめ合うなんて、お洒落な格好してお洒落なお店でお洒落なごはん食べてするデートよりなによりずっと素敵な夜の過ごし方だなあって思えて、しあわせな気持ちになった。なによりあなたが隣にいればそれだけで幸せなのだということが、ふたりから伝わってきて思わず泣いてしまった。
一期一会の出会いだとしても、一期一会だからこそ、この夜の一瞬一瞬を大切にしたい。必ずやってくる終わりがあるからこそ、ともに過ごせる時間は貴重なんだ。流れ行く時間の中にある大切な瞬間をつなぎとめることなど出来ないのだから。次の約束をしなかったのに、別れ際に溢れ出た本音、この抑えれない気持ちを恋と呼ぶんだろう。きっとまた半年後の今日、この場所で、だからさよならをしても、彼らは満たされた顔をして帰っていけるんだ。

ゴーストトロピックに続き、こちらも一期一会なお話だった。たとえ、その瞬間だけのものだとしても、出会いは大切にしたいって強く思ったし、なによりひとに会ってとにかく話したい気持ちになった。精神的冬眠をしていたタイミングでこの映画をスクリーンで観れて、目覚めのきっかけをもらえたような気がする、この上なくしあわせ、すっかり満たされた。もうすぐ春だ。
空きっ腹に酒

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