一人旅

この自由な世界での一人旅のレビュー・感想・評価

この自由な世界で(2007年製作の映画)
5.0
ケン・ローチ監督作。

移民に仕事を斡旋するシングルマザーの姿を描いたドラマ。

イギリスの名匠ケン・ローチが移民問題をテーマに描く社会派ドラマの秀作で、民間の職業紹介所をクビになったシングルマザー:アンジーが親友:ローズと共に求職中の東欧移民を対象とした職業紹介所を立ち上げるが、労働許可証を持たない不法移民にまで仕事を斡旋し始めたことにより予期せぬトラブルに巻き込まれていく姿を映し出しています。

アンジーが運営する職業紹介所はいわゆる派遣会社です。当初は東欧移民に対する仕事斡旋を業務にしていましたが、“儲かる”ことを理由に生活に困窮した不法移民にまで仕事を斡旋し始めます。劣悪な生活環境に身を置きながら長時間の肉体労働に従事する移民たちですが、給料の未払いといった深刻な問題が発生します。アンジーは資本主義の正義に基づいて移民を商品として自由に企業に売って荒稼ぎしますが、その一方でアンジーの紹介によって職を得た移民たちは不遇な労働環境と一向に改善しない経済的困窮に苦しみ続けるのです。

自由は不自由を伴います。アンジーは自由という権利を謳歌しますが、その皺寄せは社会的に無力な存在である移民たちの元へ不自由となって押し寄せます。現代社会における移民・労働問題をテーマに、稼ぐ者と搾取される者の関係性の縮図を描き、資本主義の矛盾と問題点を浮き彫りにした社会派の秀作です。
「私は気にしない」というアンジーの言葉が、弱者を切り捨てる資本主義・拝金主義の冷徹な側面を端的に表現しています。

ちなみに本作はイギリスを舞台にしたお話ですが、派遣会社の国別事業所数は世界の中でも日本が突出して多いのが実情です。正規・非正規間の格差が深刻な日本において、本作で取り上げられる問題は決して他所事ではないのです。
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