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この自由な世界でのodyssのレビュー・感想・評価

この自由な世界で(2007年製作の映画)
3.5
【甘さもあるが意欲的】

現代ならではの問題を扱った意欲的な映画ですが、多少映画的な甘さも見られるような。

グローバル化時代、仕事のない地域の人々は合法・非合法を問わず仕事のありそうな地域に移動します。そういう人々に職を斡旋する仕事も必然的に成立する。ただし、非合法で入ってきた人に職を提供するのはこれまた非合法ですから、まともな人はやらない。

この映画では、甲斐性のない夫と別れて子供を親に預けながら必死で働く女性が、そうした危ない仕事に手を染めていく過程を追っています。その辺の描写は非常にリアルですし、ヒロインと親、ヒロインと子供との関係もしっかり捉えられているので、作品に重層性が増しています。

ただし「甘いな」と思う箇所も。ひとつはポーランド青年とヒロインとの関係。ここは、親や子供の関係とは逆でおとぎ話めいており、あんまりリアリティがない。もう少し青年に職を探す必死さとか、これまでたどってきた人生の過酷さだとかが出るようにしたほうが良かった。

次に甘いと思うのは、非合法的にであれ職を斡旋したヒロインが、やむを得ないところも多少あるにせよ給与を支払わなかったために襲われるわけですが、案外無事に済んじゃっているんですね。まあ、ヒロインが死んじゃったら元も子もないからということでしょうけど、瀕死の重傷を負うくらいじゃないと問題の切実さが伝わってこない。職を探す非合法移民だって相当エグい人たちなはずですからね。

最後の終わり方も、私は疑問を感じました。というのは、非合法的な労働者の流入は、逆に移入国側からすると自国の若手下層労働者がそれによって職を失うということであり、そこからナショナリズムや排外主義が起こりやすいのです。この映画ではそうした側面が描かれていませんが、ヒロインがああいうことを続けるなら、外国の下層階級には優しいけど、そして自分も儲かるからいいだろうけど、自国の下層階級には逆に抑圧的に振る舞っていることになるんですよ。この映画はそこまでテーマを掘り下げていないけど、労働者の移動の問題を扱うならこれは避けて通れないところのはずで、ちょっと甘いんじゃないかという感想が残ったのはそのせいでしょう。

色々批判めいたことを書きましたが、こういうテーマを取り上げた意欲は評価したいと思います。
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