ずどこんちょ

エアフォース・ワンのずどこんちょのレビュー・感想・評価

エアフォース・ワン(1997年製作の映画)
3.7
大統領専用機がハイジャックされた!
テロリストたちの狙いは、人質の命と引き換えに、現在投獄されている旧ソ連復活を目指すラデク将軍を釈放することでした。

テロ発生直後、真っ先に警護官に連れられて脱出ポッドに入った大統領。しかし、大統領は妻や娘をテロリストに占拠されたエアフォースワンに残して去ることができませんでした。
大統領はポッドから抜け出し、一人取り残された機内で人質と家族を救い出すためにテロリストたちに単身立ち向かうのです。

単身で占拠するテロリストに立ち向かう勇敢な男。その構造はダイ・ハードのようではありますが、本作の舞台はより閉ざされた空間である飛行機の機内です。
ちょっと歩いただけでテロリストたちに遭遇する危険が増え、身を隠して移動できる範囲も極度に少ないです。限られた空間の中で、大統領は敵から奪った銃を片手に勇敢にも動き回ります。

アクションもカッコいい!政治家に必要なのは、決断力と行動力。この姿を見たら、誰しもマーシャル大統領を支持せざるを得ません。
大統領としては自身の立場を脇に置いてちょっと危険に身を投じ過ぎているとも見えますが、マーシャルが救いたいのは人質と、それ以上に妻と娘なのです。人質が全員救助された後も、テロリストに連れて行かれた妻と娘を探し出すためまだ機内に残るのです。それは大統領としてではなく、もはや父親としての行動力だったのでしょう。
占拠前、アメフトの試合を見ながら寝ていたマーシャルと娘がじゃれ合うシーンを見ても本当に家族思いな大統領なのだと見られました。

政治や信念はモンスターを生み出す。
ハリソン・フォード演じるマーシャル大統領と同じぐらい凄まじい印象を残していた敵役がテロリストのイワンを演じたゲイリー・オールドマンです。
イワンは大統領の娘アリスに銃を突きつけ、「俺が怖いか?」と語りかけます。彼の話や大統領に対して訴えた言葉を聞くにつれて、彼が強固な信念の元に実行に移したことが分かってきます。
被害者となった乗客たちにも、親がいて子がいるように、イワンにも小さな子供が3人いるとアリスに語ります。イワンは家族と別れを告げることになるかもしれないと分かっていても、祖国ロシアの荒廃が許せなかったのです。
いや、彼が見る荒廃とは資本主義化してアメリカの思想に近付く母国のこと。それが一概に荒廃しているとは思えませんが、政治的な思想や信念が違うのでしょう。
そして、そういった思想や信念がモンスターを生み出したのです。イワン個人は家族もいて暮らしもあったはずで、決してモンスターではなく、ただの人間だったはず。
国を救いたいという正義を掲げて信念の元に立ち上がり、それに対して「テロには屈しない」というアメリカの信念が大統領専用機の中で衝突したのです。
「ネズミに菓子を与えると、次にミルクを要求される」ということわざ、聞いたことなかったですけどテロに対するアメリカの考え方を感じました。

イワンのテロ行為は決して容認できるものではない残忍な犯行ですが、根底にある彼なりの正義が見え隠れしているからこそ、敵ながら一筋縄ではいかない強力なエネルギーが感じられました。