ないで

カイロの紫のバラのないでのレビュー・感想・評価

カイロの紫のバラ(1985年製作の映画)
5.0
大恐慌時代のニュージャージーで、生活に疲れた主婦のセシリアは映画『カイロの紫のバラ』に夢中になっている。熱心な彼女の姿に、スクリーンの中のトムは恋に落ちてしまい・・・というほろ苦ロマンチックコメディ。

トムを探しに来た俳優のギルとセシリアの関係が面白かった。主役級ではないけれど演技にプライドがあるギルにとって、役者としての自分の可能性を完璧に理解してくれているセシリアは理想の観客、理想のファン。ギルとセシリアのパートにはたしかに真実の交流めいたものがある。

そして、本来は出会うはずのなかった二人の間に生まれた確かな何かの象徴が、変わらぬ愛を誓ってくれるけれど生活力はまるでないキャラクターのトム。しかしギルはトムの役作りには自信がありながら、映画会社に脅されてトムをフィルムに連れ戻さなければならない。

トムとギル双方から求愛されたセシリアは・・・という、いつの間にかスクリーンの中と外が入れ替わっているような関係性の変化を、ミア・ファローがエンジェリックに演じ切っておられました。狂ったようにウクレレを弾く姿も怖くて可愛かった。

自分的にはウディ・アレンの最高傑作なんじゃないかと思いました。銀幕の向こうの可憐な薄幸のヒロインに対して、マンハッタンの男(アレン)が送った切ないラブレターでもありますよね、これ。
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