桃子

カイロの紫のバラの桃子のレビュー・感想・評価

カイロの紫のバラ(1985年製作の映画)
4.1
「現実逃避」

これもだいぶ前に見ていた映画。最近、映画を語る映画にハマってしまっていて、そういえばウディ・アレンの映画があったなあと思い出して再見した。
久しぶりに見たけれど、やっぱり面白かった。ただ、初見の時とは感動のポイントが違ったかもしれない。
ヒロインのセシリアは大の映画好き。ダイナーでウェイトレスをしているが、キッチンで映画の話ばかりしている。私も今、毎日映画漬けの生活をしているので身につまされる。もっとも、セシリアは現実の生活があまりにも酷くて、現実逃避のために映画を見るのである。彼女の夫は、働かずにお酒ばかり飲み、セシリアに辛くあたる。何度も家出を試みるけれど、やっぱり戻ってきてしまう。彼女がいやなことから解放されるのは、映画館で夢の世界に浸っている時だけだ。そんなある日、大ファンの俳優ギル・バクスターが出演している「カイロの紫のバラ」を鑑賞中に摩訶不思議な出来事が起きる。ギルが演じているトムというキャラクターがスクリーンから飛び出してくるのだ。
映画というものはいいものだ。とうていありえない話をでっちあげて映像に仕立て上げてしまう。映画が好きでたまらない人がいかにも思いつきそうな話だが、その映画好きが映画監督なら、当然自分の妄想を映画化するだろう。ストーリーを思いつき、脚本を書いて、絵コンテを作り、カメラを覗き、「アクション!」と叫ぶ。アレン監督の場合、この時期にパートナーだった女優をヒロインに想定して脚本を書いたのかもしれない。
セシリアが「カイロの紫のバラ」を夢中になって見ているその姿は、たぶん私が映画館で映画を見ている時の姿そのままなのだと思う。大好きな俳優が出演し、素晴らしい演技をしている。ストーリーも最高に面白い。そうなったら、見ている表情は呆けたような恍惚顔だ。そうに決まっている。
セシリアを演じているのはミア・ファローである。彼女のプロフィールを見て、またまた驚いてしまった。初婚の相手はかの有名な歌手フランク・シナトラ。次の夫はピアニストのアンドレ・プレヴィン。この結婚の間に、夫婦は3人の子供をもうけた上に、ベトナムから2人、韓国から1人、養子も迎えている。3人目のパートナーがウディ・アレンである。ふたりは結婚も同居もしなかったという。アレンとの破局の原因は、なんと韓国人の養女だった。アレンは養女と付き合った末に結婚し、ファローはアレンだけでなく養女とも疎遠になってしまった。ファローは「悲劇だ」と語ったそうである。そりゃそうだ。そうも言いたくなるだろう。パートナーが養女と結婚してしまうなんて、超びっくり。
この映画は、ふたりの事実婚の期間中に作られた映画である。その後の「悲劇」をファローは知る由もないのだけれど、映画のラストは決してハッピーエンドではない。映画のスクリーンを見つめるセシリア(ファロー)の目が、悲しくやるせなく見えた。
ウディ・アレンという監督は、私生活ではなんだか残念な人であるけれど、作る映画は素晴らしい。この世に完璧な人間なんていないんだなあと痛感する。
桃子

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