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挽歌のdiesixxのレビュー・感想・評価

挽歌(1957年製作の映画)
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JAIHOの「MoMAセレクション 知られざる松竹」特集の一本。五所平之助の堂々たる文芸メロドラマ。この特集は発見が多いけど、やはり五所平之助の完成度が高い。
倦怠期を迎えている森雅之、高峯美枝子の夫妻に久我美子や渡辺文雄の情熱的だが未熟な若者がそれぞれにちょっかいを出し、さらに久我と親しい石濱朗も絡んだ地獄の五角関係を演じる。久我美子の無責任、無鉄砲な言動が、夫妻を振り回した挙句、取り返しのつかない悲劇を生んでしまう。場合によっては久我美子総叩きとなりそうだが(実際ちょっとイラっとはする)、いずれも演技巧者で、五所の演出も一級なために、普遍性と説得力がある。誰にでも、若さゆえの浅はかな考えと振る舞いにより、いたずらに他人を傷つけまくった時期があろう。シナリオの力も大きいと思うが、クレジットされている女流作家・由起しげ子の貢献もあるのだろうか。
森・高峰夫妻の愛が完全に冷め切っているわけでないバランスが絶妙。夫と妻それぞれと親しくなり、露見するまでのサスペンスもうまい。特に友情、憧憬、嫉妬、敬愛、憎悪が入り混じった高峰・久我の関係性は複雑かつ繊細。久我美子の父親もこの時期にしては異様に放任主義で、代わりにばあやがあれこれ小言を言ったり、世話を焼いたりし、後々思わぬ形で物語を動かしていく。
渡辺文雄は後々の東映での悪役や『ウルトラセブン』「円盤が来た」などのイメージが強いが、本作では高峰の若い愛人という二枚目役で驚き。調べると当初はそういう役が多かった模様。石濱朗はかなり気の毒な役で、久我を朝の喫茶店に迎えに行ったのに、森雅之に連れ去られていくのはみじめすぎる!!
釧路市が舞台で地元の商工会議所が協力しているからか、ロケ撮影も多い。寒々しく、霧深い、それでいてどこか温かみのある美しい雰囲気をフィルムに刻みつけている。セットの完成度も遜色なく、窓枠の使い方が印象的。歌う劇団員(50、60年代の映画で若者が歌う場面をよく見るが、この頃の若者は本当に歌っていたのだろうか)の宴会を外から撮ったり、森雅之よ事務所の窓の外の煙突からもくもくと蒸気が出ていたりと直接ストーリーや演出に関係ないシーンでもなぜか凝っていて、奥行きを与えている。ラストの久我美子と森雅之の「別離」の場面では小さな窓枠が瞠目すべき効果をあげている。
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