湯っ子

監督失格の湯っ子のネタバレレビュー・内容・結末

監督失格(2011年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

林由美香という人のことは、この映画で知った。
男たちに愛され、求められることで生きてきた人なんだなと思った。媚びるとか、おもねるとかいうのではなく、生きる手段として。

それは彼女の母親とは真逆なところが興味深い。
由美香がいちばんの心の拠り所にしているのは、取り巻く男たちではなく、ママ。喋らなければ(喋っていても)男性に見える。由美香とその弟の父親は違う男性だが、そのどちらとも結婚生活は続いていない様子。撮影当時、五分刈りにねじり鉢巻で、ラーメン店の社長を務めている。
ママが自宅で亡骸となった由美香をみつけた時の慟哭と、その5年後に平野の訪問を受けた時、まばたきを全くせずに語る表情が忘れられない。

由美香と不倫関係にあるこの作品の監督、平野勝之。こんな叙情あふれる作品を作れるのだから、才能ある人なんだろう。Filmarksにあった、とある作品では、女を拷問するAVを撮る時、最初に自分の手の甲にナイフで十字架を切りつけたとか。若い頃の私だったら凄い!って思うかもしれない(思わないかもしれない)が、今の私には自己陶酔も甚だしいな、と寒々しい気持ちになる。
自分もこうして痛い思いをするんだから、これからあなたにするひどいことを許してね。先に自分に痛みを負わせて相手への免罪符とし、自分が負った以上の痛みを女に負わせるのだ。
それは、由美香との不倫関係にもダブる。でも、不倫旅行を作品にしてしまうような人だから、そもそもの常識で語ることのできない人なのかも、と思うとまじめに批判している自分がバカバカしくなるな。笑

歯に衣着せぬ物言いをするのに男性に好かれる女性というのは、たいてい可愛らしい声と話し方をする。それは処世術というべきものだろう。由美香もそうだ。
彼女の全てが、たぶん彼女を取り巻く男性にとって好ましいのだろう。美しくかわいらしく、度胸があって、無茶ぶりにも応えてくれ、しかもその様子に罪悪感を感じなくて済む。あんまり聞き分けが良すぎてもつまらないから、時にはワガママを言ったり、厳しい言葉も投げつける。彼らの欲望を全て飲み込んでくれるような女だったのかもしれない。彼女と恋愛関係になった男たちも、彼女を女優として賞賛する男たちも同じ。
かたちのないからっぽな欲望を、飲み込んで飲み込んで、なのに彼女の心とからだはすり減っていったのだろう。
女の私から見ると、彼女が選んだ生き方と、彼女が求めていたもの、それは離れたところにあったような気がする。どこで折り合いをつけていたらよかったんだろうね。
湯っ子

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