さわだにわか

ちぎれた愛の殺人のさわだにわかのレビュー・感想・評価

ちぎれた愛の殺人(1993年製作の映画)
3.5
なんとも歪な映画なのだが『死霊の罠』と人魚伝説』を繫ぐ池田敏春ユニバースのミッシングリンクとして捉えるとわりと合点はいく。脚本の石井隆的には池田敏春とのタッグ作『死霊の罠』が石井隆版『スキャナーズ』×『バスケットケース』なら、『ちぎ愛』は石井隆版の『殺しのドレス』のつもりだったのかもしれない。ただしそこに日本神話と民間信仰を織り交ぜているのが石井隆の知性と独創性造型であり、佐野史郎演じる村木の邸宅地下は池田敏春の大胆なセット造型センスを得てさながら黄泉の国、イザナギ村木は死して鬼女と化した余貴美子のイザナミ名美を求めて黄泉の国へと堕ちていく。石井隆は後年『愛は惜しみなく奪う』でも広大な地下空間を神話世界として描き出していた。

狂い度は低めながらも寂しげな眼差しの中に静かな狂気を宿す佐野史郎はやはり見事、村木としては異色のキャラを説得力とは違うのだが、真に迫って作り上げていた。村木を追う刑事の横山めぐみは石井隆の映画のキャラとしても池田敏春の映画のキャラとしてもミスマッチ感があるのだが、円山町を村木を追ってひたすら走りまくる『その男、凶暴につき』を思わせるチェイスシーンなど身体を張った芝居をしていて頑張っていた。

わけのわからない話なのだが、ラストのなんともしれん物悲しさはやはりこのタッグの作だなぁと思う。
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