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ヘッドライトのtjZeroのレビュー・感想・評価

ヘッドライト(1955年製作の映画)
4.3
長距離トラックの運転手のジャン(ジャン・ギャバン)は、街道沿いのなじみのカフェで仮眠をとる。
その90分の休憩で彼の脳裏によみがえるのが、この映画の本編、回想部分になる。
2年前のクリスマス、ウエートレスのクロチルド(フランソワーズ・アルヌール)と深い仲になる。
妻子持ちのジャンにとっては、許されぬ恋なのだが…。
職を求めてパリに出て来たクロチルドと再会した彼は、ふたりで生きていく道を探り始める。

運チャンが主役って事もあるけど、”道”の描写が印象的。
パリの路地、雨に濡れた石畳みの舗道。
枯葉が散り、舞うさびれた街道。
霧に煙る深夜の国道。
…ふたりの先行き困難な道行きを暗示しているかのよう。

愛人とのスキャンダルを追求された仏大統領が、「それが何か?」と答えたという有名なエピソードがある。
そんな国の作品だからなのか、本作で描かれる恋路は明らかに”不倫”なんだけど、汚らしくも、許されないもの、という感じもしない。
数ある恋愛のひとつのカタチ…とでもいうような、フラットであり、懐の深い描き方。

あと感心するのは、主演のギャバンの演技力とそのたたずまい。
マフィアのボスだろうが、本作のようなしがない運転手だろうが、ピッタリとハマる。
こちらも懐が深い。
薄幸のヒロインを、大らかに包みこんでいる。

ジャンの仮眠時間=クロチルドとの回想が終わると、本作にも幕が下り、静かに”Fin”の文字が浮かび上がる。
シブく、しみじみと沁みてくるメロドラマです。
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