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ディファイアンスのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

ディファイアンス(2008年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ナチス・ドイツに両親を殺されたユダヤ人のビエルスキ3兄弟は、復讐を胸にベラルーシの森へと逃げ込む。やがて森にはナチスの迫害から逃れてきたユダヤ人が続々と集まり始める。兄弟は同胞を見捨てることができず、彼らを保護しつつ森の奥へと隠れ場を探して進んでいく。だがその数は予想以上に膨れ上がって行く…。

迫害されるユダヤ人描いた映画は多々あれど、森に潜伏して武装してナチスと戦ったユダヤの人々がいたとは知らなかった。
「ブラッド・ダイヤモンド」など社会派作品が多いエドワード・ズウィック監督が、6代目007のダニエル・クレイグを主演に迎え、第2次世界大戦中に実在した1200人ものユダヤ人を救ったビエルスキ兄弟の物語を映画化。

「ホロコーストの被害者」という固定概念の映画が多い中、「戦うユダヤ人」とはかなり斬新に感じる。
実話ベースだが、非常にドラマチックな戦争映画の秀作である。

ダニエル・クレイグが演じる主人公の長男トゥヴィアは、大勢の無力なユダヤ市民をまとめ、森の中に村を建設していく。
木を切り倒して小屋を立て、それで風雨をしのぎつつ、生活の基盤を作る。
敵に脅え、寒さと飢えに堪える彼らの生活の様子が細かく描かれる上に、戦闘シーンも迫力があり、見応えがある。
ナチスに追われるだけでなく、集団が大きくなるにつれ、ピンチを招く要素が次第に大きくなり「本当に彼らは助かるのか?」とハラハラさせる。

特にドラマチックなのは、リーダーとしてトゥヴィアにのしかかる重圧と苦悩、そして人間的な成長である。
もともと彼らビエルスキ3兄弟は肉体労働者。
戦闘の経験もなければ、知性もない粗野な農夫である。
平和な世なら民衆を率いる指導者になるはずのない男たちだ。
ドイツ軍に両親を殺され、自分たちの庭とも言える森の中に逃げ込んだだけなのだが、同じように逃げ込んできた同胞に頼られてしまったがために、共に森で暮らし始める。
仕方なくトゥヴィアは自らパルチザン(武装集団)の戦士としてドイツ軍と戦うこととなる。

寄る辺なき同胞の数は予想以上に膨れ上がるが、トゥヴィアは誰一人見捨てることが出来ないのである。
だが、優しいだけではリーダーにはなれない。

大量の食料の調達はもちろん、病気の流行に対しては薬品の調達、新たな仲間の受け入れ、意見の対立、反乱分子への対処、ルールの構築と徹底…などなど、問題は山積みだ。
行動力だけでなく、知性的な正しい判断力と非常時においては即時決断をトゥヴィアは求められるようになる。

トゥヴィアと歳の近い弟のズシュは、本来なら右腕として協力すべきだが、誰も見捨てない優しすぎるトゥヴィアのやり方に反発し、ソ連兵に加わり、ナチスと戦うようになる。

食料を調達してきたからと言って、人より多く食事を貰おうとする男が出る。
反抗的な態度を見せる男をトゥヴィアは拳銃で射殺。
周囲の空気は凍りつき、怯える。
しかし、恐怖政治では集団をまとめられるはずもない。

むやみに集団が大きくなるのを抑えるため、新たに子どもを産むことは禁止していたが、ひとりの女性が妊娠が発覚。
「新たな生命は地獄の中での唯一の希望」と女性陣の頑なな反対に会っては、トゥヴィアも許さざるを得ない。
リーダーには、話し合いや譲歩も必要だと学んで行く。

トゥヴィアが孤立し、苦悩する様をダニエル・クレイグが好演する。
張り詰めた強面の表情を時折崩し、焦りや不安、または喜びを浮かべるのがとても人間くさくて共感を呼ぶ。

通常の映画では資質の異なる者同士がお互いに認め合いながら、そのうち結束し始めるという展開を迎えるところを、本作は最後まで集団がまとまることがない。
それどころか物資が減り、腹が減ってくると相互への不信感は余計に深刻になる。
映画的な綺麗事ではなく、人間や組織の醜い部分をも本作は映し出す。

被害者であるはずのユダヤ人たちが捉えたドイツ兵をリンチしたり、無関係な人間を復讐に巻き込んで殺したりといった、決して褒められぬ行動をも描いている。
決して美談ではない過酷な現実も描いているからこそ本作は見ごたえがある。

反対に、兄弟たちのロマンスや綿雪が舞う中でユダヤ教の婚礼が静謐に描かれる美しいシーンもあり、ドラマチックさにメリハリが効いている。

史実ではなく映画的な演出だろうが、ラストの森からの命懸けの脱出劇もドラマチックだ。
ナチスに森を包囲されたユダヤ人たちは、劇中に何度か出てくるモーゼの「十戒」(出エジプト記)の話よろしく、海ではなく沼地を渡るの羽目になるのだが、老人や子ども、病人や怪我人を含む大集団では全員を救うことなど無理だと、トゥヴィアは頭が真っ白になり、途方にくれてリーダーとして機能を果たさなくなる。
危機に際して即決して行動できるリーダーになり得ないところもまた人間くさい。

若い弟のアザエルの叱咤激励により、何とか全員が沼地を渡りきったのも束の間、戦車や重火器を持ったナチスの歩兵団に追い詰められる。
トゥヴィアは超人的な反撃を見せるが、所詮は多勢に無勢。
万策尽きたところに弟のズシュが仲間を引き連れて現れ、ナチスを撃退するという奇跡が起こる。

都合の良い展開だと感じるのが難点ではあるが、感動的かつ劇的に締めくくられるのは、とてもニクい演出である。

映画としての話はそこで終わるが、それから2年間も森に潜んでいたという史実がテロップで流れる。
見終わって思うのは、こんな状況を何年もの間続けることが、自分に出来るだろうか?ということ。

非常時が起きた時、いかに生き残るか?ということの難しさと、いかに自分が恵まれた時代を生きてるか痛感することのできる作品である。
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