このレビューはネタバレを含みます
正直、高く評価するには難がある映画と言わざるを得ない。
セリフというセリフが「自己陶酔ポエム」であり、登場人物それぞれが自分や自分の置かれた環境に酔っているように思えてならないのだ。
私、あなたの夢に惹かれたの。
会えば会うほど、もっと会いたくなる。おかしくなりそうだ。
君は死ぬ間際に、誰かを愛したことを思い出す?それとも、愛されたことを思い出す?
君の汗の匂いが好き。
などなど、酔って心が麻痺していないと口にするのもはばかれるような言葉が次々と出てくる。そういった意味では、賛否はあれ、純度の高い恋愛映画であることは間違いない。渦中にいれば、そんなことを恥ずかしげもなく平気で言っているものだから。
そう、特に男が抱きがちな「(身勝手な)泡沫の夢」とシンクロすると、この映画は絶妙にハマる。舞台は1975年のバンコクという設定だが、ムワッとした熱帯の空気感と、汗をからませ逢瀬を重ね合う男女のネットリとした関係にウットリしたい向きにはおすすめできる。
実際、真中沓子(中山美穂)と、婚約者がいながら沓子と関係を持っていた東垣内豊(西島秀俊)の、空港での別れのシーンに号泣したことは内緒にしておきたいところだったが、まあグッときたことは認めなければならない。文句を言いながら、立派に映画に酔っていたのである(その直後、同じ場所に豊の婚約者である尋末光子(石田ゆり子)がすかさずあらわれなぜか肝を冷やしたことも、ここだけの話として)。
ファム・ファタール、いわゆる「魔性の女」という殿方の幻想を、中山美穂が見事に演じていた。そこだけに評価点を与えたい。