矢吹

夢二の矢吹のレビュー・感想・評価

夢二(1991年製作の映画)
4.2
まず天ぷらで一合の酒を飲む。
天ぷらそばの食い方よ。
これだけでも覚えておいた方がいい。

本当に匂うんすよ、この映画。
生きることのいじらしさって言うか、人間の匂いが。
動物にはない、人間が作り出した文化を、動物的に、モラルなどを飛び越えて享受していく、人間独特の匂い。って言うか。
とにかく、儚い、死との距離が近い分の、世に執着しないからこそ、色恋に勤しむ姿、その艶やかな色気。
産んで育てるための愛などは、それこそ、動物に任せている、人間ならではの戯れ。

物理法則が、現実とはかけ離れている。
絶対に映画なんだから、そもそもそんなことは当たり前なんだけど。
こんなに自由で独特なことはあんまりないっすよ。まさにこれが世界観というものなのか、この世にないルールまで自力で持っていく脳みそ。
正解のない正解を出す。
なんでもいいけど、なんでもいいわけがないから。
なるほど、鈴木清順の世界特集だ。
ユーロスペースでやってましたね、同時期に、でいうと、オッティンガーなんすよね。確かに。
確かな時代の、架空の世界のお祭り騒ぎ。と言いますか。
メイドインジャパンか、ドイツかって話。
同じ時期に食らわせたいのもわかると言う。
アタシは、まんまとどちらも、大好物のベロですから。

日本でもできるんだよ、やはり、他の国の人に、日本人でないことを、悔しがらせることができる、固有の雅をさ。
俺らが、たびたび、ヨーロッパにやられてることに対して、脱帽と同調ではなく復讐をしてやるわ、見とけこの野郎、ということで、清順先輩、お願いします。
着物と楽器の調べ。パレードなのか、神楽というところまで言っていいものなのか、まあ、シンプルな舞楽でいいんだけど。

余貴美子さん、広田玲於奈さん。
当たり前に美しい。こんなにまで妖艶な青年だったのか。
今だってすげえ綺麗だけど、やっぱり、レベルが違ったんだね。
伊達に生き残ってるわけねえもんな。
そりゃ、出てくる主軸の女性みなさん、最高峰なんすけど、今で言うと、蒼井優さんとか、この映画の生まれ変わりかもしれない。色んな女性の影に、あの人がなぜか見えた。匂いを継承できてる人物。
あと、広田玲於奈さんのこの頃に、なんか顔は似てるからという理由で、桜田ひよりさんが好きなってしまった。
これが噂の逆噴射大好きってやつか。

あと、広田玲於奈で糠漬けを作るシーンがあるんだけど、まさかとは思ったけど、大マジにやってたらしい。
ありえないっすよね。もう二度とやらないだろうな。そんなシーン。
だからこそ、価値ある映画だとも思う。
それだけじゃなくて、すべてのカットが、コンピュータのCの字もなしに、感覚と発想と工夫で表現されている。信じられないほどに。
そこに命も宿ってんすよね。
フィルムに、誤解上等で言うけど、ゴッホのような、確かな厚みを感じるし。そんなわけないのに。でも、あるんだよ。画面の奥に広がってんすよ。

赤と青と黄色が、かなり重めに用いられている。それは、現代の映画の正体でも、ございますからね。光が先か色が先か、白と黒とは違うのか、あとでちょっと確認してきますけど。
そしてとにかく、この色の三原色がよく似合う、魅力お化け、沢田研二。
他の映画で見るたびに、ジュリーが大好きなので、3部作のここから見たわけですけど、凄いスーパースターだなやはり。モデルというか、被写体として、王様だわ。
名前だけはガキンチョの時から、流石にずっと聞いてたけど、ジュリーの音楽とかも聴いていこうかなと思ってる。ハマった。

情けなさと、男らしさと、ヒステリックを持ち合わせた、この男。
夢二も、完全に、羨望の対象となっていく。
絵描きは女遊びに耽るもの、って説得力を過剰にまで感じる。勉強になります。

電話はあるし、新聞もある。
もう2度と会えない人がいることを、
わかりやすいのが、いまは昔。
今だって、連絡先を知ってるだけで、あとは何にも意味がないのに。
仏壇とか墓と同じなのかね。
スマホなんて捨てたろかな。
俺が無くせば俺の世の中から無くなるんだから。

辞世の句。読まないとなあ。
待てど暮らせど来ぬ人を。
矢吹

矢吹