あなぐらむ

悪の階段のあなぐらむのレビュー・感想・評価

悪の階段(1965年製作の映画)
4.0
南条範夫の原作を鈴木英夫自らホンを書き映像化。カラーで撮れる予算があったのにあえてモノクロで、との監督の希望で作られたその意図は、作品から濃密に漂うノワール色に表れている。何よりも団令子に纏わせたその黒い毒が、後半に向け作品を一種の舞台劇へと変転させていく。

物語は単純化されており、金庫破りのサスペンスではなくその後の悪党どもの心理戦に時間は割かれる。西村晃が出ている事で今平「果しなき欲望」を想起させもし、山崎努は淡々と悪の司令塔を演じ凄みを感じさせる。この西村晃の獣性が、インテリ風な山崎努との対比になっている。ここに、鈴木英夫の強いアメリカンミステリへの憧憬を感じさせる。
同年には同じ東宝で須川栄三が「けものみち」をやはりモノクロで撮っており、興味深い。

映像的な話でいうと、これは絶対どうにかするだろうと思わせる野中の一軒家の不動産屋のセットは効果的に闇の造形に使われ、最後のカタストロフでごうごうと燃え落ちる。そのための人の欲の象徴としてのセットだ。

久保菜穂子が可哀想な役で出ているほか、1シーンのみ登場の土屋嘉男が印象に残る。本作の団令子はほんとにクールで、同じ鈴木英夫の「その場所に女ありて」(山崎努も出ている)の司葉子か、日活後期の渡辺美佐子みたいだ。

映画には、何か物語を描きたいものと、映像自体を見せたい、作りたいものがあって、「悪の階段」は完全に後者だ。あの陰影強いヒリヒリするような映像と饒舌ではない会話シーンを、深い暗い夜や地下の闇を、そして燃えさかる炎を映像にしたい。団令子の冷たい表情を画面に刻印したい。そういう意図に沿って作られた映画だ。