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狼男アメリカンのkaomatsuのネタバレレビュー・内容・結末

狼男アメリカン(1981年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

今やB級カルト・コメディ・ホラー映画として位置付けられている本作は、実はレッキとしたオスカー受賞作品でもあるのだ(1981年度アカデミー賞最優秀メイクアップ賞受賞)。『ブルース・ブラザーズ』の大ヒットの翌年、ジョン・ランディス監督が放った次なる本作は、ホラー映画のひとつの定番でもある「狼男伝説」。本作でも、ランディス監督の音楽への愛情はひとしおで、すべての挿入曲のタイトルに「moon」が付いているという徹底ぶりを見せている。

アメリカから、はるばるイギリスのウェールズまでヒッチハイク旅行に来た二人の若者、デビッドとジャック。満月の夜、二人が村のバーに立ち寄ったところ、一斉に口をつぐむ常連客との間に、不穏な空気が流れる。バーを後にして歩く二人は、突然獰猛な生き物に襲われ、ジャックは噛み殺されてしまう。重傷を負ったデビッドは、命からがら病院で治療を受けながらも、獣に襲われた恐怖心から幾度も悪夢にうなされる。さらには死んだはずのジャックが、血みどろの姿でデビッドの前に何度も現れ、自分たちを襲ったのが狼であり、生き残ったデビッドは満月の夜には狼男に変身し、人を食い殺してしまうから、その前に自殺することを勧める。戸惑いながらもデビッドは退院し、彼の世話をした看護師のアレックスと、退院した日の夜、濃厚に愛し合う。そしてついに満月の夜、身体中の骨がバキバキと音を立てて変化し、全身に体毛が伸び始め、口は裂け、狼男に変身してしまったデビッドは、街に出て無差別に人を食い殺し始める。翌日、姿は元に戻り、自分がしたことを思い出せないデビッドは、ロンドンの映画館内で、今やゾンビと化したジャックや、食い殺された被害者たちの霊と出会い、効率的な自殺の方法を勧められる。そして満月の夜、デビッドの体は再びバキバキと音を立てて変化し始め…。

80年代ならではのバタ臭さ満載の、超シンプルなB級ホラーながらも、見どころは満載だ。まずはオスカー獲得となった、主人公のデビッドが狼に変身するシーン。CGのない時代の、アナログなSFX特撮技術ならではの醍醐味が堪能できる。また、デビッドの前に何度も姿を現す死人ジャックの、出てくる度に腐乱度を増していくメイクアップも、当時としては画期的だったはず。ジャックは最後に完全にゾンビ化するが、このゾンビこそが、同じくランディス監督が手掛けた、あのマイケル・ジャクソンの「スリラー」のPVに出てくるゾンビたちの造形の元となっていることを考えると、やはり本作の存在意義は大きい。さらに、デビッドが見るトラウマチックな夢のコワ面白さ。ナチス風の軍服を纏ったモンスターたちがデビッド宅を訪れて、デビッドと家族を銃で皆殺しにする夢や、夢かと思って安心したら、それもまた夢だったという、二重の夢のシーンなどは、ブニュエルの『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』にそっくりだなぁーと思いながら、DVD特典のランディス監督のインタビューを観ていたら、まさにその影響であると監督自身が語っており、納得。とにかくシュールでコミカルな悪夢の連続が楽しく、かつ深い。そして、デビッドの看護師として彼を世話しながら、次第に心惹かれていくアレックスを演じたジェニー・アガターの、えも言われぬ艶っぽさ。自立したオトナの女性として、ストイックに仕事をこなしつつも、その真摯な態度や視線、言葉の隙間などからこぼれ落ちる色香が、殊に魅力的だ。特に、入院時にご飯を食べようとしないデビッドの口元に「荒療治よ」と食事をフォークで運んで食べさせ、デビッドがモグモグしているのを色っぽい眼差しで微笑むジェニー・アガターの表情は、オンナであると同時に母性愛にも満ち溢れていて、もうキュン死レベル。狼男やらゾンビやらへの派手な変身シーンだけでなく、そんな男女の機微も垣間見ることができる、とても贅沢な作品だ。
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