みかんぼうや

殺人狂時代のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

殺人狂時代(1967年製作の映画)
4.2
【カルト映画としての強い支持に納得!鬼才・岡本喜八が届ける、今までに観たことのない奇怪、奇天烈な衝撃的殺人コメディ。】

なんじゃこりゃ~!奇怪!奇天烈!破天荒!まさに“鬼才”の業。こんな映画、岡本喜八監督でなければ作れない。究極の殺人コメディ。本作の前に観た「サイコ・ゴアマン」のインパクトが瞬時に吹っ飛んでしまうほどの衝撃。

ここで何かを語るよりも、アマプラの本作の「予告編」を30秒だけ観ていただきたいです。狂人たちの高笑いと「時計仕掛けのオレンジ」の導入のようなアーティスティックな精神病棟・・・それだけで、この作品の特異性を瞬時に理解できると思いますので。ただし、アマプラの「作品解説文」は読まないほうが良いと思います。中盤以降に分かる結構なネタバレが書かれています。

予告編だけでは分かりづらい話の導入だけ少し書きますと、精神病院を運営する溝呂木博士は「日本国人口調節審議会」なる組織を作り、自分の精神病院の患者を殺し屋に仕立て上げ、この世に不要な人間を殺すことを楽しんでいる。そんな溝呂木のもとに、ナチス秘密結社時代の同僚であるドイツ人博士が訪れ、「日本国人口調節審議会」の実力を試そうと3人の日本人の殺人を依頼する。しかし、そこには隠された本当の狙いがあった・・・

この設定を読んでも、何が起こるか想像がつかないのではないでしょうか。そう、実際に作品を観ていても、あまりに飛んだ設定なので、何が起こるか想像がつかないのです。しかしながら、実はストーリーの本筋はとても分かりやすく至ってシンプルな方向に進んでいきます。だから難解な作品にあるような迷子になることは全くない。ただ、コメディックでハチャメチャに進んでいくので、これでもかと次の展開がやってくる。

そして、岡本喜八監督独特の奇妙にして面白味に溢れたカット割りや人物描写の構図、場面転換は、極めて邦画な画でありながらふとヨーロッパ映画を思わせる瞬間もあるユニークな映像を創り出し、物語の奇天烈さとの相乗効果の結果、他の邦画では決して味わえない独特の感覚が怒涛のように押し寄せてくる。

おまけに仲代達也演じる主人公をはじめとした登場人物たちがなんとも濃い。あの仲代達也が「キテレツ大百科の勉三さん」のようなド近眼おとぼけキャラで殺し屋たちと対峙していく。

理屈や常識で考えてはいけない作品。理屈で考えたら強引な辻褄合わせの連続ですから。あまり考えずぎずに感じて楽しむ究極のエンターテインメント映画だと思います。

岡本喜八監督作品は「肉弾」以来で、「肉弾」は“反戦コメディ”として、常にエンタメ性を大切にしながら、実はかなり強烈な皮肉的反戦メッセージを提示するという、軽快ながらも骨太な作品でしたが、こちらは完全にエンタメに振り切っている。ただ、どちらの作品も、ユニークな映像演出や編集と巧妙な展開は共通していて、ただただこの監督のセンスが好きでたまりません。

今年は岡本喜八監督の作品を10本以上は観ようと決めてU-NEXTやアマプラのマイリストに温めていましたが、この作品を観たことで、その消化速度が一気に上がることは間違いありません。
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