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ラリー・フリントのmikanmcsのレビュー・感想・評価

ラリー・フリント(1996年製作の映画)
4.5
最近バカアクションばっかり観てる気がして(&それはそれでハッピーなのですが)たまには骨のある映画を、と思ってミロス・フォアマンの名作を鑑賞。見直したのは10年ぶりくらいですが、前回同様、感動しました!

子供の頃からアパラチア山脈で密造酒作ってたヒルビリーのラリー・フリントが自分のストリップ・バーの宣伝のために「ハスラー」を創刊。猥褻罪で訴えられて、期せずして世間のモラルや嘘っぱちにツバを吐きかけ、収監や銃撃までされながら己の信念(or 反抗心?)と妻への愛情を貫くお話です。制作にオリバー・ストーンが噛んでるので、エロと戦争とどっちが猥褻、メガ・チャーチ牧師のいかがわしさ、キリスト教原理主義による共和党支配、エイズへの偏見と意図的な放置、表現の自由と公人への名誉毀損など、様々な社会問題が描かれますが、芯となるのはラリー・フリントという独立独歩=極めてアメリカ的な精神の持ち主と妻アリシアとの物語であることが感動を呼ぶ所以でしょう。

原題の「Poeple vs Larry Flint」の「People」はキリスト教原理主義者などの「良識派」の意味だと思います。(2023.8追記。「People vs xxx」の形式はアメリカの裁判ケースの一般的な呼称であることに気づきました。よって日本語では「ラリー・フリント裁判」っぽいニュアンスかもしれません)自由を愛するラリーは、神の名のもとに自分たちのモラルを他人に強制する彼らに我慢がならなかったのでしょう。また、当時のレーガン政権は「エイズはみだらなセックスに溺れる者への神の天罰だ」という宗教右派のトンデモ主張を受け入れ、エイズ対策を何もせず、ネグレクトしました。(このあたりの事情は「ダラス・バイヤーズ・クラブ」でも描かれていましたね)彼の妻アリシアはHIVに感染して死にますので、「彼らに殺された」と考えても無理はありません。

またラリーが宗教右派の大物「ジェリー・ファルエル」を雑誌で下品なパロディにして名誉毀損で訴えられ、「表現の自由と公共の著名人への名誉毀損はどちらを優先すべきなのか」が争われた最高裁のシーンは本作のクライマックスですが、まさに今、日本で起きているスラップ訴訟の問題そのものであり、日本でも早期に恫喝・威圧的訴訟を制限する法律ができてほしいです。

まとめると、本作は「どうしようもない、最低の人間の矜持」がストレートに描かれていて、圧巻でした。(&コートニー・ラブの体当たり演技もすごかったです。)

最後に、Wikipediaによるとラリー・フリントさんは2021年2月に亡くなられたそうです。R.I.P.
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