note

少林寺のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

少林寺(1982年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

激しい動乱の時代の最中、小虎は圧政を強いるワン将軍に父を殺されてしまう。重傷を負った小虎は、少林寺の門前で倒れたところを助けられ、優しいタン師父やその娘パイ、そして少林寺の修行僧らの手厚い介抱を受ける…。

ハーッ!ハッ!ハッ!ハッハッ!
あのやたら熱量の高い予告編のシーンを子どもの頃に何度真似したことか。
男の子なら一度は強さに憧れる。
生まれて初めて劇場で見た中国映画かも。
もう公開から40年以上経つのか…と思うと感慨深い。

公開40周年記念のデジタルリマスター版を鑑賞したのだが、年月を経た今、驚きはさらに増すばかり。
演者の動きは早回しでもCGでもないのだ。
あの素早い身のこなし、あの跳躍の高さ、あの剣の振りや拳の繰り出されるスピード…。
全てが本物の迫力。
自分が年老いて体力など無い今見ると、出演した本物の武術家たちの超人的な身体能力と技巧に拍手喝采である。

世界的アクションスター、ジェット・リーが、本名のリー・リンチェイ名義で出演した映画デビュー主演作。
隋の時代の少林寺を舞台に、全中国武術大会5年連続チャンピオンのリーをはじめとする中国武術家のチャンピオンたちによるリアルなアクションが展開するカンフー映画の傑作だ。

介抱の末、すっかり容体が良くなった小虎は修行僧とともに水汲みを行う。
しかし、体力の劣る小虎はほとんどの水をこぼしてしまう。
学校の掃除時間に真似した人もいるだろう(私だけではないはずだ)
両手を広げて水の入ったバケツを持ち、その姿勢をキープするなんて、重みに負けてしまい、とてもじゃないが無理。
リマスターされた綺麗な映像で確認できるが、桶が揺れて溢れる水の量は、決して桶を底上げしたトリックではない。
ものすごい筋力を必要とする修行を涼しい顔してやってのけるのが驚きだ。

ある日、小虎は修行僧らが拳法を練習している風景を目にする。
そこで登場する様々な拳法。
槍に刀に縄、棒術に三節棍、蟷螂拳に酔拳…。
大勢で一斉に演舞する勇壮さたるや。
実際にどうやって敵を倒すのだろう?とワクワクする。
映画を見る者の視点は小虎と一致するのだ。

父の復讐のため、自分も強くなりたいと散髪した小虎は拳法の練習に励むが、いつまで経っても基礎ばかりで不満が募る。
タン師匠は一人前になるのは5年はかかるのだと小虎に答えると、彼は気を取り直して必死に修行に励む。
ここがあの予告編のシーンだ。
気合いと共に練習に一気に熱がこもる。
まるで高校球児と監督のエピソードである。

それからの長い修行の年月を表す、季節ごとに花や風景が変わるセットの中で、小虎の成長を見せるリー・リンチェイの演舞がこれまた見事。

夏は少林拳、秋は三節棍、冬は槍術、春は長刀術と、目にも止まらぬスピードと驚くべき跳躍力と開脚の広さを披露。
後に彼の素早い動きを「ジェット」とあだ名した欧米人の気持ちがよく分かる。
技が確かに体に染み込んでいるのが良く伝わってくる。

修行中のある日、王将軍に追われる一人の男を見つけた小虎。
その男は、李世民(後の唐朝第2代皇帝)だった。
兄弟子とタン師匠の協力もあり、小虎は抜け道から李世民を逃がすことに成功するが、王将軍から少林寺は目をつけられてしまう。
さらに小虎が李世民の逃亡に川でイカダを用意した所を王将軍の部下に襲われる。
そこに小虎を助けるため、兄弟子とタン師匠らは軍を皆殺しにしてしまう。

こうなった責任はお前にあると、小虎を追放するタン師匠。
しかし、それは小虎を逃がし、娘と幸せに暮らして欲しいがための心優しき口実だ。

部下を殺され激怒した王将軍は、軍勢を率いて少林寺に襲来。
一番偉い官長を焼き殺し、李世民と小虎の居場所を言わないと少林寺も焼き払うと脅迫する。
そこへタン師匠たちが少林寺に帰還。
小虎も自分が犠牲になると駆け付ける。

ここから最後までは、少林寺を守るための王軍勢との大バトル。
後年の香港映画でお家芸となるワイヤーアクションもほぼ見られない。
20分以上もの間、華麗なる武術に酔う時間だ。

大人数を諸共せず、軍勢を薙ぎ倒していく姿が痛快だ。
しかし、敵の矢に射たれてタン師匠が命を落としてしまう。
そこに李世民の軍勢が応援に。
王将軍の軍勢は蜘蛛の子を散らすように逃げ出して行くが、小虎と兄弟子たちは王将軍を追う。
そして、とうとう王将軍を追いつめた小虎は、殺された父と同様に剣で王将軍の心臓を貫き、ついに仇を討つ。
小虎はタン師匠の娘パイへの気持ちを押し殺し、本格的に仏門に入る。
李世民が国を統治し、少林寺にも平和が訪れる。

父を殺された主人公がやがて武術の数々を修行して、ついには仇を打つ物語。
カンフー映画のお約束とも言える復讐譚が物語の基本。
王道中の王道である。

だが、ありきたりな王道に甘酸っぱいロマンスや、仏の道を説く道徳心に師弟愛や友情もプラス。
仏門において殺生はいけないが、栄養を取るために生き物を殺したり、悪を退治するのは良いとは都合が良いが、そこがまた人間くさい。
時折そんなギャグも混ぜ、決して退屈しない作りとなっている。

80年代の昔の映画がこんなにも素晴らしく感じるとは。
やはり「本物」は時を経ても色褪せないのである。
note

note