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アビスのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

アビス(1989年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

カリブ海ケイマン海溝で米国の原子力潜水艦「モンタナ」が不可解な形で沈没。米国政府は周辺海域にハリケーンが接近している事を考慮して、付近で石油採掘を行っていた海底移動設備「ディープコア」に救助協力を依頼し、同施設に海軍特殊部隊による調査チームを派遣するが…。

公開時に劇場で見て以来の再鑑賞。
遭難した米原潜救助に協力する民間深海作業チームの奮闘を描いた、ジェームズ・キャメロン監督のSFサスペンス大作である。

サスペンスの舞台となる海底基地を始め、巨費を投じた数々のメカニックやセットのSFXは素晴らしく、実際に水中で撮影されたシーンにはリアリティがあり、今見ても見応えは充分。
中盤以降、未知の生命体の登場によって、話の焦点が違う方向に移ってしまうことに賛否あるが、個人的には肯定派だ。

ディープコアの作業員のリーダーであるバドは、ディープコアの設計者として特殊部隊チームに同伴して来た別居中の妻リンジー、高圧的な特殊部隊の司令官コフィ大尉と時に衝突しながらも協力してモンタナの調査に当たる。

モンタナの残骸まで辿り着き、生存者が居ない事を確かめたディープコアのクルーたちだったが、ディープコアと海上の支援船を結ぶケーブルクレーンがハリケーンにより破損。
落下したクレーンでディープコアも半壊し、海上との通信も寸断され、闇と水圧の海溝で立ち往生してしまう。

そんな中、上層部からの命令で特殊部隊は原潜の核弾頭をソ連の手に渡るのを防ぐため、秘密裡に回収していたことが判明。
さらにコフィは重責へのプレッシャーから徐々に神経症を発症。
正気を失い、脱出を優先するバドたちと一触即発の事態となっていく。

前半は海底に取り残されたクルーとイカれた軍人の対立によるサスペンス。
絶体絶命の中、ただ救助を待つことしかできないディープコアのクルーたちだったが、そこで彼らに接触してきたのは海底深くに棲息していた未知の生命体だった…。

海水を操り、まるでバドたち人間の様子を珍しがって探っているかのようなエイリアンの登場で、中盤からは「未知との遭遇」的なSFに変わる。

だが、物語の骨子としてはどちらかというと「2001年宇宙の旅」に近い。
かの名作は暗黒の宇宙でAIと人間の対立からモノリスの謎に変わる。
本作では深海でクルーと軍人の対立に、謎のエイリアンが割って入ってくるのである。

結局、発射解除が必要な核爆弾は海底深くに落ちてしまい、それを止めにバドはそれまで人が行ったこともない深い淵へ。爆弾の解除には成功するが、既に酸素は底を尽きており、戻ることはできない。
片道切符は覚悟の上で妻リンジーに「愛している」というメッセージを送信してバドは死亡…。

かと思いきや、なんとエイリアンが救ってくれる。
神秘的な光と共に深海から出てくるラストシーンはまさに救世主だ。

エイリアンが地球に飛来した理由や、なぜ深海に身を隠すのかが不明なのは少々不満たが、キャメロン監督が伝えたかったのは、おそらく冷戦当時の反核へのメッセージ、そして「地球人類は好戦的すぎる」ということだろう。

地球外生命体でさえ、和平的に接触してくるのに、地球の人類は何千年も共にしていながらいまだに殺しあう生き物に見えてしまう。
潜水艦が行方不明になったからといってソ連のせいにして、核攻撃をしようとトチ狂うコフィ大尉の有り様は、エイリアンの視点から客観視すれば、まさに「好戦的」で「内輪揉め」以外の何物でもない。

公開から30年が経過し、冷戦はとうに終結しているのだが、現在のロシアとウクライナ、中東ではイスラエルを巡っていまだ戦争がある現実を鑑みると、本作におけるエイリアンの視点は充分に人類への戒めとなっている。
普遍的な教訓が感じられるSFの佳作である。
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