桃子

アギーレ/神の怒りの桃子のレビュー・感想・評価

アギーレ/神の怒り(1972年製作の映画)
4.8
「地獄のジャングルクルーズ」

この映画を見ることにした理由は、マーティン・スコセッシ監督が「映画監督をめざす人にすすめる映画」というのをリストアップしていて、その中のひとつだったからである。私は別に映画監督を目指していないけれど(笑)、映画を作る人が見るべき映画とはいったいどんな映画なのかと興味津々。玄人受けする映画であって、ただの映画好きが見ても面白くない映画もあるかもしれない、そう思ったら、案の定この映画は最後までしっかり見るにはかなり忍耐の必要な映画だった。
この映画の凄さがわかったのは、見終わってしばらく経ってからだった。要するに、映画の解説を読んだ後のことである。いかに撮影が困難だったか、筆舌に尽くし難い状況だったようだ。
ヴェルナー・ヘルツォーク監督の根性と才能で出来た映画である。南米のジャングルで体当たりロケを敢行し、「こういう映画を作りたい!!」という信念を貫いた。その情熱に付きあった俳優さんやスタッフさんたちの苦労は並大抵のものではなかったはずだ。
主人公アギーレを演じているのは、クラウス・キンスキーである。「殺しが静かにやって来る」を見た時にプロフィールを読んで吐き気を覚えたのは記憶に新しい。やなヤツだなあと思ったけれど、才能はある人なのだ。この映画は、彼のために作られたのではないかと思えるほど、何もかもが符合している。アギーレは行軍に自分の娘を連れてきているのだが、それは後々に自分の奥さんの代わりになってもらう目論見がある。キンスキーのプライベートそのままやん!!コワイ…
監督とキンスキーは、10代の頃、同じ下宿で暮らしていたという。その後、20代後半で監督と役者という立場で宿命的な再会をしたのだとか。どんな友人関係だったのか、なんとな~~~~く想像がつく。たぶん、愛憎かな。大好きだけど、大嫌い、というやつ。おそらく、ふたりは似た者同士だったのだろう。だからタッグを組んだ映画を5本も作ったのだ。似た者同士ということは、つまり監督もかなりイッチャッテル人だということ。キ○ルシ同士、とても気が合う部分があったに違いない。
監督と主演俳優との、複雑で熱烈で微妙な関係を知らないで見るのと知ってから見るのとでは、映画の印象が変わってしまうかもしれない。私は知らずに見たので、最初はいまいちピンと来なかった。今はピンときすぎて、大嫌いなキンスキーが偉大な俳優に思えてくるほどだ。彼の「狂気」が映像にこれでもかと詰まっている稀有な作品である。
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