半兵衛

博奕打ち いのち札の半兵衛のレビュー・感想・評価

博奕打ち いのち札(1971年製作の映画)
4.3
初めてフィルムセンターで鑑賞したときには文芸映画のような格調の高さと悲劇に向かって突き進む登場人物たちを緻密に描く脚本、恋愛と任侠への葛藤が爆発したラストにひたすら圧倒されていたが、久しぶりにソフトを購入して観賞すると1971年という三島由紀夫切腹や学生運動の挫折という時代の空気感がひしひしと画面から匂っていることに気付く。主人公の鶴田浩二とヒロインの安田道代の関係性はやくざ映画ではままあるものであるが、恋愛関係や登場人物が任侠よりも恋慕を優先していく展開が異色で任侠を破壊するかのような「敗者の美学」の趣もあるラストはどこかニューシネマのよう。

松竹時代メロドラマに出演したキャリアを持つ鶴田浩二だけに、任侠映画らしい見せ場もさることながら濡れ場もしっとりとこなす。鶴田特有の顔を一瞬ピクリと揺らす癖も、恋情と任侠の掟で揺らぐ主人公の奥歯を噛み締めているかのような状況に似合っている。

ヒロインが東映任侠映画でお馴染みの藤純子ではなく安田道代のためか、任侠ヒロインの藤が封印していた生身の女性の情感が前面に出ておりそれもいつもの任侠映画のパターンを壊す遠因に。演技も上手く、組長の夫人となるもかつて愛し合った鶴田のことを忘れられない感情を目線一つでさりげなく演じているのが流石。

安田が着ているショールの赤が任侠という世界に抑制された人間の血のたぎりをあらわし、それがラストの朱につながる演出に唸らされる。ただ初めて鑑賞したとき後ろで見ていた若い女性たちが、「ラストなにあれ?」と語っていたので彼女たちとしてはこの映画の人間たちによる感情は観念的にしか見えなかったのかも。

東宝の岡本喜八作品から飛び出したような天本英世のヒットマンもかなりのインパクト、そしてそんな彼に後ろから拳銃を突きつけられても平然と仕留められる若山富三郎がカッコいい。
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