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鉄男 THE BULLET MANの消費者のネタバレレビュー・内容・結末

鉄男 THE BULLET MAN(2009年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

・あらすじ
愛する妻、ゆり子と息子、トムと共に何不自由なく幸せに過ごしてきた主人公、アンソニー
しかしある日、何者かの運転する車にトムが轢き殺されてしまう
怒りに震えアンソニーに犯人への復讐を強く求めるゆり子
息子の死と妻の怒りによって精神的に追い込まれたアンソニーの体はやがて兵器と化していく
そして明らかになる息子を殺した者の正体と自らの体に隠された秘密
それは犯人、“ヤツ”との激しい戦いの幕開けを意味するのだった…
というSF/アクション/バイオレンス作品

・印象
本作は前作「鉄男 Ⅱ BODY HAMMER」から17年後に公開されており、ほぼ全編が英語で展開され主人公も外国人だが、むしろ1作目「鉄男 TETSUO」の作風に原点回帰している感じがした
カラー作品ながらモノクロに近い映像がかなりの割合を占めていて音楽も前作がシンセパンクやニューウェイヴが導入されていたのに対し今作は再びほぼ全てがインダストリアルとなっている為だ
一方で物語や設定がしっかりと構築されている点は前作に近く海外を意識してか人間ドラマの要素も強い
だが基本的なカメラワークやキャラの描写がおざなりになっている訳ではなく分かりやすいと同時に本シリーズ独自の魅力はしっかりと味わえた

・感想
今作の魅力は何と言っても前述の通りしっかりと構築された物語と設定
特にアンソニーが鉄男と化してしまった背景は前作以上に悲劇性の高い物となっているのが良い
その背景はこういう物だ
アンソニーの父、ライドはバイオテクノロジーの研究者だった過去を持ち人工人体の開発をしていた
その際にライドは米国企業からの投資を受ける為に単なる人工人体ではなくトランスフォームという能力を持たせる“鉄男プロジェクト”を始動させた
それは人間を兵器化する事を意味していた
ライドと共に開発を行なっていた妻、美津枝はその事実を知り反対したが自身が癌で余命わずかとなった事で子を持つ夢を叶えるべく自らの死後にアンドロイドとして複製を作る事を彼に求めた
アンソニーはアンドロイドとして復活した美津枝とライドの息子だったのだ
その事実を知るハッカー、“ヤツ”はアンソニーを暴走させ世界に破壊と混沌をもたらすべく変異の引き金となる怒りを引き出そうと彼の息子、トムを殺し倫理的な懸念からかつて計画を中止させた企業に密告を行い彼を襲わせたのだった…
前作までは日本の少年漫画や特撮作品を思わせる様な世界観だったのに対し、この背景はアメコミ的な悲劇性が強いのが新鮮だった
そういった物語や設定の良さだけでなく人間兵器の描かれ方においても1つ前作までと異なる点がある
それは鉄男と化したアンソニーの声
トランスフォームした彼の声は金属に反響した様な硬質な物になっていてそれが鉄男の異形性を高めていて凄くかっこよかった
興味深かったのはそうしてより鉄男が金属的に描かれていたのに対して前作までと比べて行動や言動の面では人間らしさが強く残っていた事
そのギャップが今作独自の魅力を物語と共に生み出していたと思う

ただ惜しかった点もある
これまでの2作で鉄男と化してしまう主人公は田口トモロヲが演じていて冴えない男が怪物へと変貌し狂気に呑まれ暴走していく姿が素晴らしかったのだが今作の主人公、アンソニーを演じた役者はシュッとしたイケメンとなっているせいでその良さが失われていた事だ
特に田口トモロヲは体が変異していく苦痛に喘ぐ声の演技が良い意味で情けなく壊れていく様子を表現していたのだが今作ではその本シリーズの代名詞とも言える要素がやや拙く感じた
容姿に関しては元来の整った容姿と醜い金属塊に変貌した後の姿の差の激しさを楽しむという見方も出来なくはないがやっぱり声の演技に関しては少し残念
とはいえそれを補うかの様にアンソニーが父、ライドに教わった通り感情を鎮めようと子守唄を口ずさむ場面が魅力的だったのでそこまで気になるというほどでもない
他にはあっさりとしたハッピーエンドに終わってしまったのが若干モヤモヤしたけどそれまでの展開の良さがあるのでまぁそれくらいはご愛嬌かな

・総括
海外向けな描写や演出が結構入ってきて時代の経過によってより洗練された映像となっていてハリウッド的な人間ドラマが強調されていながらもシリーズの魅力を損なう事なく仕上げられていたのには天晴の一言
むしろカルトな邦画と洋画的なSF/アクションの魅力が上手く絡み合っていたのが本当に見事だった
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