サマセット7

E.T.のサマセット7のレビュー・感想・評価

E.T.(1982年製作の映画)
4.0
監督は「ジョーズ」「ジュラシック・パーク」のスティーブン・スピルバーグ。
主演は「ギャングオブニューヨーク」「ドクタースリープ」のヘンリー・トーマス。

[あらすじ]
アメリカ郊外の森の中、謎の飛行物体が降り立つが、予期せぬトラブルが発生し…。
郊外の住宅地に暮らす10歳のエリオット(ヘンリー・トーマス)は、兄の友人仲間に入れてもらえず不満顔。母と父の別居も、彼をもやもやさせる。
そんな時、家の裏庭の物置にナニカがいることに気づく。
そして、少年と宇宙から来た「友人」との種族を越えた交流が始まる…。

[情報]
ハリウッド最強のフィルム・メイカー、スティーブン・スピルバーグ監督のSF映画。
80年代映画の最大のヒット作であり、全世界を熱狂の渦に巻き込んだ。

原題は「E.T. The Extra-Terrestrial」。
地球外生命体、との意味。
まさしく、今作は、地球外生命体と少年との交流を描いた作品である。

スピルバーグ監督は今作製作時点ですでにジョーズ、レイダース/失われたアーク、未知との遭遇などのヒット作を飛ばしており、娯楽映画監督の第一人者とみなされていた。
今作は、監督自らの少年時代の経験、特に両親の離婚に苦しみ、想像上の宇宙人の友人に安らぎを求めていた経験を下に、子供たちを主人公とした作品となっている。
製作段階では、子供を主役とした映画はヒットしないとみなされ、配給に関するトラブルもあったようだが、蓋を開けてみると、史上空前の大ヒットとなった。
監督本人も驚いたという。

音楽は、スピルバーグ映画常連、2022年時点でアカデミー賞ノミネート52回、受賞5回を誇る現代有数の映画音楽作曲家、ジョン・ウィリアムズが担当。
今作でも作曲賞を受賞した。

今作のE.T.は、アニマトロニクス(生物を模したロボットを使った撮影技術)で撮影された。
基本的にオペレーターが操作し、中には3人の役者が場面に応じて中に入って、動きをつけたという。
映画史上に残る宇宙人の外見は、世界中を夢中にさせた。

今作は、現在、批評家から、映画史上屈指の名作と評価されている。
他方、子供向け映画とのイメージがあるのか、一般の映画好きにはナメられがちな映画かもしれない。批評家の評価とは乖離が見られる。

アカデミー賞9部門ノミネート、作曲賞、視覚効果賞等4部門受賞。

今作の製作予算は1050万ドル。
世界興収は7億9000万ドル。
当時スターウォーズが持っていた世界興収の記録を塗り替えた。
インフレを考慮すると、史上最もヒットした映画の一つである。

[見どころ]
映画の神様スピルバーグによる、光と影を駆使した神業というしかない幻想的映像の数々!
これぞ、映画の快楽!!
忍び寄る顔の見えない大人たち、という演出のもたらすサスペンス!!!
E.T.の造形と動きの、今見ても新鮮な面白さ。
子供視点での大人世界の無情さと、反骨のファンタジー!!!盛り上がる!!
魔法的と呼ぶしかない、伝説的飛行シーン。
そして、心に残るラストシーン。

[感想]
久々に再鑑賞。
こんなにもスピルバーグの技術を駆使して作られた映画だったか。
こんなにも熱く盛り上がる映画だったか。
こんなにも、大人と子供の断絶をクリアに描いた映画だったか!!
前に観た時は一体、何を観ていたのか。
正直ナメていたとしか言いようがない。

冒頭からして、スピルバーグ演出満載。
宇宙船らしき物体と、ナニカの影。
そして、近くに次々と停車する車のライトの暴力的なこと!!
顔の映らない大人たちの足音と懐中電灯の光の柱の恐ろしさ!
セリフはほぼなく、人物の表情すら映さない映像と音響の力だけで、母船から異星人が取り残された顛末と、彼を追うものたちの存在を、緊迫感豊かにまざまざと浮かび上がらせる。

その後の裏庭の物置のシーンの光と影の、なんと美しく、幻想的なことか!!!
こんなにも宇宙人との初接触にふさわしい雰囲気があろうか!!!
他にも今作では、全編、光と影を駆使した映像が冴え渡っている。

今作では、途中まで、母親以外の大人たちの顔は、影に隠れて一切画面に映らない。
そのことが、何とも言えない緊迫感と、大人の世界と子供の世界の断絶を印象づける。
幕間にふっと映り込む大人の影が、追われている緊迫感を継続させる。
そして、印象的な宇宙服の者たち!!!
子供の言うことを、黙殺し続ける大人!!

子供たちの演技の瑞々しさ(ドリュー・バリモア!!)、E.T.の動きや表情の豊かさ、月をバックにした伝説的名シーン、コミカルな展開とクライマックスの意外にも燃えるアクションなど、語るべき点の多い作品だ。

今作がここまでのヒットになった理由は、E.T.のユニークなキャラクターと、子供たちの感動的な成長譚のキャッチーさに加えて、スピルバーグ演出の総合的なレベルの高さも確実に寄与していたに違いない。

ラストシーンは感動的。
子供時代に観たら、より心動かされただろうか。

[テーマ考]
今作には、父母の別居に関する言及が散りばめられている。
今作は、少年が両親の離婚にあたって、非情な現実と対峙し、E.T.との交流、兄妹や友人との連帯の中で成長し、最終的に現実を受け入れる話と読み取ることが可能だろう。
今作は、両親の離婚が最も辛かったと語るスピルバーグの自伝的作品とされる由縁である。

未知との遭遇のラストと今作のラストを比較すると、今作においては、より主人公の人間的成長(=現実の受容)を読み取ることができる。
この変化は、スピルバーグがより大人になったため、と説明されることが多いようだ。

今作のテーマが少年の人間的成長であるとして、ではE.T.とは何か。
多様な解釈が可能だろうが、少年期にしか持ち得ない、何か。
例えば、純粋な夢、世界への憧憬、あるいは、全能感などのメタファー、というあたりがしっくりくるか。

[まとめ]
スピルバーグの演出を堪能できる、80年代を代表するSF映画の名作。
今年はE.T.公開40年の記念年にあたる。
もはや映画の形態は変わり、ジャンルや視聴方法はニーズに合わせて細分化しつつある。
E.T.のような、世界的な社会現象を巻き起こす映画は、今後二度と現れないかもしれない。