シズヲ

E.T.のシズヲのレビュー・感想・評価

E.T.(1982年製作の映画)
4.0
スピルバーグはもう本作の数年前に『未知との遭遇』を果たしているので、こちらでは冒頭から未知の存在が地球に降り立っている。本作の宇宙人は巨大母船に乗ってくるような上位存在でも何でもなく、未知の惑星へと孤独に取り残された“異邦人”として描かれる。それ故に“家庭で孤独感を抱える少年”と有機的に結び付き、SF的下地の本作をジュブナイル映画として昇華させている。ETのビジュアルは人間と掛け離れた異形ではあるものの、子どもの目線に合わせた体躯や好奇心に満ちた瞳が愛嬌を生み出している。あと『静かなる男』からの直接的な引用が描かれていたのが何だか面白い。

母子家庭やイマジナリーフレンドなど、スピルバーグ監督の幼少期の記憶が大きな影響を与えているらしいのが興味深い。『未知との遭遇』と表裏一体の題材を扱いながら、本作は“子ども達”を主題にすることでよりミニマムで自叙伝的な物語へと落とし込んでいるのが面白い。終盤まではETの存在は“子ども達だけが知る秘密”として隠し通され、尚且つ大人の“顔”が画面に映し出されないことが印象的。ETは“子どもの世界の存在”となり、“大人からの介入”によって失われるものとして扱われていく。本作の物語が示すイノセントさを象徴するかのような趣がある。そして子ども達の心配をよそに好奇心旺盛なET、見てるこちらもハラハラさせられるので妙に味わい深い。

本作の魅力は自伝的内容にファンタジックな空想を盛り込んだことである。宇宙人との秘密の交流によって物語は進み、終盤からはETとの友情によってドラマチックな展開へと突き進んでいく。そこで主役となるのは依然として子ども達であり、本作は自叙伝×ファンタジー×SFを混ぜ合わせた高品質のジュブナイル物として機能している。そして「10歳の頃からETが来るのを待っていた」という台詞が示すように、本作は“大人になったかつての子ども”にも映画の夢を届けている。空想に対するこの祈り、中々どうして愛おしいものがある。

要所要所の画面作りも印象深い。時に幻想的な眩さを放つ照明、靄がかった演出など、画面から滲み出る一種の神秘性が本作の空気感を構築している。自転車で空を飛ぶ有名なシーンは言わずもがなだけど、庭の倉庫を捉えた夜間のカットにおける幻想性も印象深い。宇宙船飛び去ったら虹が掛かるラストは流石にクサさが勝るものの、ETと子ども達の別れのシーンは紛れもなく感動的なので十分に余韻は残る。ジョン・ウィリアムズの楽曲は何処か大仰であり、良くも悪くも後年の映画音楽の方向性を決定付けた感はあるけど、本作の幻想性と噛み合う形で場面を盛り上げてくれるので憎めないものがある。
シズヲ

シズヲ