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アダプション/ある母と娘の記録のhasseのレビュー・感想・評価

4.2
女性初の金熊賞に輝いた作品。明度のさほど高くないモノクロ映像はとても好み。
序盤で分かるのは、メーサーロッシュ監督がとにかく女性の顔と身体を丁寧に撮ろうとしていること。43歳の主人公女性の気苦労が感じられる顔の深いシワや、手作業で荒れた手、入浴中の素肌のアップのショットが沢山登場する。中盤の主人公とアンナが疑似親子的な関係性を芽生えさせ、一つのベッドに横たわって会話するシーンの美しさ。二人の顔を会話のテンポに合わせてカメラが往還する。終盤の結婚式の寄宿学校仲間の列席者たちの仏頂面(アンナだけ幸せになりやがって…という感情だろうか)を逐一映し出していくのはもはや愚直とも言える行為だが、果たして映画史上、ここまで女性という存在を真正面から、真っ正直に映し出した映画が存在しただろうか?(と見栄をきったけど、あるかも)

ラストは、アンナは恋人との結婚を、主人公は養子を、それぞれ望んでいたものを手に入れるが、アンナは浮かない顔をしているし、主人公も格段喜びの表情を浮かべるわけでもない。アンナは結婚するに当たり両親から事実上縁をきられ、主人公は恋人に父親になることを望むも断られている。二人とも、一番ほしいものを手に入れる過程で、別のなにかを失っている。全てを満足に手に入れることは難しく、どこかで折り合いをつけて生きていかねばならない人生の厳しさを表しているのか。はたまた、疑似親子としてベストマッチだった主人公とアンナは離ればなれになって生きていくことの寂しさか。
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