篠村友輝哉

ポエトリー アグネスの詩(うた)の篠村友輝哉のレビュー・感想・評価

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現実に起きた出来事の惨さ、悲しみに向き合おうとしない穢れに満ちた世界のなかで、無垢なる心を持ったミジャは、自らの内から消えゆく言葉を紡ごうともがき、孫の犯した罪の犠牲となったアグネスの声を聴き取ることで、はじめて一篇の詩を完成させる。詩は、ほんとうの言葉は、不可視なものを見ようとすることから生まれるのであり、その不可視なものの究極は、死者の声であるということなのだろう。
『シークレット・サンシャイン』で徹底して神を懐疑したイ・チャンドンが、この次作で死者の声を手繰り寄せようとしたことは興味深く、冒頭に提示される川の流れの如き静謐に満ちた彼の撮る映像も例によって素晴らしいが、その死者の声は、結局は自分が想像した声でしかないではないかという考えは覆らなかった。
篠村友輝哉

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