ここ数年で観た映画の中でもベスト級。女性を主人公にした作品だとTOP3に入る。
この作品には2つのテーマがある。
ひとつは創作するということ。
もうひとつが女性として生きるということ。
ミジャ、66歳。生活保護を受けながら、入浴介護ヘルパーとして働きつつ、遠く釜山で暮らす娘の息子、つまり孫の面倒をみている。
2010年で66ということは1944年生まれ。翌年日本敗戦による統治終了。それからの韓国の近代史を考えると、ファシズムと共にあった人生。自由はなく強い男尊女卑の社会で生きてきた。
彼女の上品な物腰や教師から詩人になれると褒められた言葉から、かつてはきちんとした教育を受けたものと思われる。
が、激動の時代にあって軽視される人権、なかでも女性の人権は最も軽かったもののひとつだったことは容易に想像できる。
現在の彼女に夫の姿は影すらもない。
娘の姿を見ると苦労して1人で育てたのだろう。
貧困がもたらす家族の崩壊。
貧困が人間に与える深刻な影響は遠い国の話ではない。貧困にあって自我を保つのはとても困難な事を我が国でも身近に感じる。
彼女は忘れることで自分を保っていた、苦しいことを感じないようにしてしか生きられなかったのではないか。
いつかは誰にでも訪れる女性としての“老い“のさまざまを非常に厳しく、またこれほどまで美しい言葉と行間で描いた作品を自分は他に知らない。