ひろぱげ

ポエトリー アグネスの詩(うた)のひろぱげのレビュー・感想・評価

4.8
とてつもない傑作。特に終盤、息をするのも忘れるほど、ただただスクリーンにひきつけられてしまう。

タイトルやポスターなどから、ちょっとオシャレな老女が詩作に目覚めるお話かな、なんて・・・イ・チャンドンがただそれだけのものを作るわけがないってことを瞬時に思い知らされる。

花を愛し、お喋りが好きでユーモアのある、ちょっと浮世離れしたおばさん ミジャの見つめる美しい世界と、人間のドス黒いものが澱む世界(この監督の作品にしばしば現れる、いけ好かない、胸糞悪い、義に反する人々の世界)の対比。これまでのイ・チャンドン作品の持つ強烈さよりも、あの川の流れのようなゆったりとした静かな仕草で、いつの間にか見る者の急所を切り裂いてくる。切れ味が良すぎると、切られた事にすぐには気づかないものだ。

イ・チャンドンの映画には、他の韓国映画とは違って「普遍性」が強いように思う。かと言って韓国らしさがないわけではないし、街や農村の風景はいたって韓国的であるのだが、不思議な「どこでもない国」の雰囲気を感じる。特に本作ではそう思った。それが余計に本作の神聖さを、清らかさを引き立てている。
そして、前作「シークレット・サンシャイン」と次作「バーニング」を繋ぐモチーフが色々と登場する。例えば、母(母性)と息子、田舎の農村に不釣り合いな格好の女性、下世話な男達のコミュニティ、貧困、キリスト教、ビニールハウスなど。

橋の上で帽子を風に飛ばされたミジャが川を覗き込んだ時、何を思ったのか。もしかすると、あの時すでに「アグネス」の意識を追体験して同化し始めていたのかもしれない。(そうアグネス。ネタバレとまでは言わないが、邦題に入れて欲しくなかったな。)詩のメモのためのノートに大粒の雨!
そして最後に詩を残して姿を消したミジャの行先を想う。

なお、主人公ミジャを演じた女優ユン・ジョンヒは、奇しくもミジャと同じ病となり、今年1月に亡くなったそうだ。
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