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ポエトリー アグネスの詩(うた)のolnのレビュー・感想・評価

3.0
【忘れたくない感情は言葉になる】
ジャンル:病気の老人と犯罪

実際に起こった強姦事件から着想を得た作品とのことで、現実世界でこんなことがあったのかと思うと胸が痛みます。
私は九割五分アセクシャル・九割五分アロマンティック人間なので、かなり理解に苦しむ描写もあり、世の中ってそうやって回っているのだなぁと、遠い人の認知世界を垣間見ました。

ところで作中、「どうやって詩を書けばいいのか」と問うシーンがありましたが、この問いも甚だ疑問です。言語化したい感情を適切な表現に落とし込めばいいだけですから、その抒情性の表出に適した表現が詩だと思うならば詩を書けばいいのです。詩を書こうと思って詩を書くことが、そもそも間違えていませんか?と思うのですが、ヨンタク先生も商売ですから、そんな野暮なことは教えてくれないわけですね。

ここのところ聞いていた ゆる言語学ラジオの回で、ちょうど子供の言い間違えと詩人の表現は紙一重と話していました。ザックリ理解した内容を纏めると、子供は限られたボキャブラリの中から、適切と思われる表現のトライ&エラーを繰り返して言語を習得していくそうです。このとき脳内で行われる仮説推論ことをアブダクションといい、詩人は適切な表現を知りながらもアブダクションの感覚を残しているため、素敵な表現で世界を切り取ることが可能なのであろう、ということだそうです。この話を覚えているうちに、『アブダクション』という単語を使いたいと考えていたところ本作に巡り合ったので、歓天喜地で喜色満面の心境です。


余談
そうだ!認知症が進行して、幼児退行が極まったタイミングの人に詩を書かせると、アブダクション祭りになるのでとんでもない作品が、、、生まれないか。蛇足がぼうぼうと茂りました。
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