洋梨

ポエトリー アグネスの詩(うた)の洋梨のレビュー・感想・評価

3.9
駐日韓国文化院コリアンシネマウィーク2013で鑑賞。イ・チャンドン監督のトークショー込みで。
松本ちえこが歳くった様な可愛い婆さんが主人公。もうボケが始まっているというのに乙女心全開で綺麗なものが大好き。ところが、この婆さん、離婚して都会で働く娘、婆さんに預けられた孫ともに家族は総じて下層である。
IMF危機以降中間層が縮小し貧富の差が拡大し固定した韓国。韓国の性犯罪の多発は、我慢は体に毒という国民性や為政者・年長者・男性の支配を正当化する儒教に根ざすだけでなく、下層の拡大も一因ではないか。これら性犯罪を当事者側から描くのが「トガニ」で、傍観者の立場から描くのが本作となる。 
詩は「美しいもの」を噛み締めることで沸き出ると教わるが、いくら「美しいもの」を見ても婆さんには詩は降りて来ない。反対に、自身の老い、貧困、向き合わない家族、孫の犯した罪、被害にあった娘の居た場所のような「美しくないもの」を嘗め尽くすことで生涯で最初で最後の詩が湧き出してくる。
やはり俺も「美しくないもの」を見て何かが湧き出る性質だ。だから「美しくない」映画が好きだし、韓国映画を観るのだろう。
婆さんは刑事に孫を売ったのか。その後自ら命を絶ったのか。おそらくそうなのだろう。詩を編まねばボケつつも天寿を全うできたかもしれない。詩を編むことで全てにけじめをつけた人生。どちらが婆さんにとって幸せだったのか。「美しくないもの」を散々見ながら詩を編みつつ飄々と生きるエロ刑事。あの人のように生きたい。             
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