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サンライズのdiesixxのレビュー・感想・評価

サンライズ(1927年製作の映画)
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ドイツ表現主義を極めた監督として、すでに数々の傑作をものにしてきたムルナウが米国フォックスに招かれ、莫大な予算と持てる技術と注ぎ込んで完成させたサイレント映画の最高峰。全てのシーンで驚くべき撮影会技術と俳優たちのエモーショナルな演技が結実している。表現主義やフェルメール絵画を再現した立体的で調和の取れた構図、それ自体がストーリーテリングに貢献するかのように設計された照明、流麗な移動撮影、画期的な字幕演出、多重露光のトリック映像による心理描写…本作で見られる驚くべき達成の数々は、ほとんど100年が過ぎた今も新鮮。『黄金狂時代』、『メトロポリス』、『キートン将軍』など同時期の傑作群と比べても、明らかに違って見える。
都会の女に誘惑された田舎の素朴な男が、妻を手にかけようとするも、愛を取り戻すという保守的で、倫理的なストーリー。陰鬱な妻殺しのサスペンスから、夫婦の再生を描くメロドラマ、仲睦まじい夫婦のラブコメディー
、そして嵐に翻弄される大スペクタクルと100分足らずで目まぐるしくジャンルを横断していく離れ業を、映像の説得力だけで押し切る。誘惑する悪女と許す聖女、田舎の柔らかな月の光と都会の煌びやかなネオンの対比は、ほとんど宗教的。実際、夫が嵐に巻き込まれた妻の無事を祈るシーンでは、窓枠の影がご丁寧に十字架を模る。登場人物や街に名前はないことも寓話性を高めている。

昨日、黒沢清の『散歩する侵略者』を見返しながら松田龍平と長澤まさみの夫婦が教会で関係を修復させる展開は、もしや『サンライズ』のオマージュなのでは、と思い返し久しぶりにDVDを引っ張り出した。紀伊國屋書店のクリティカルエディションシリーズの第1弾として豊富な特典をつけてのリリース。私はまだ大学生だったが、懐をはたいて高価なDVDを購入。高揚した気持ちでDVDデッキの再生ボタンを押したものだ。ちなみに第2弾は『裁かるるジャンヌ』、第3弾は『パンドラの箱』だった。このころの紀伊國屋はすごかったね。
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