ポンコツ娘萌え萌え同盟

サンライズのポンコツ娘萌え萌え同盟のレビュー・感想・評価

サンライズ(1927年製作の映画)
5.0
ショックだった。
恐ろしさ、楽しさ、ロマンチックさ、幻想、感動、美しさ。様々な感情を映像に色濃く映した『サンライズ』をどの"感情"で感想を書くか。
様々な映画を鑑賞して得られる感情が『サンライズ』の一作で得られて責めぎ合うが、私が真っ先に受け取ったのは"衝撃"。
何年前かの大学時代からタイトルは聞いてのに、寧ろ何故今まで『サンライズ』を観ずに生きてきたのか。オールタイムベストを捻じ曲げるレベルの傑作。

『最後の人』では明暗と表現で初老の男の心境、『ファウスト』の照明は光と闇を表現したムルナウが、『サンライズ』で捉えたのは夫婦の感情、心情にフォーカスを当てる。
表現主義的な演出は『最後の人』の方が好みだが、『サンライズ』の研ぎ澄まされた照明演出、構図、立ち位置は、登場人物の輪郭の強弱から心情や感情、演者の表情を非常に色濃く映し出し内容に奥行きを与えてる。
ただ『サンライズ』それだけの作品じゃない。
序盤で描かれるサスペンス的なショットや映像構成で対と輪郭の強調を意識し強く映されのは迷いと心の闇。
中盤のコメディタッチの場面少し明暗の強調抑えて楽しさと面白おかしさ(特に遊園地で逃げ出した子豚騒動のショットと構成が好き)。果には男女二人の間ロマンチックさを明暗で映した直後にパニックの表現。
作品に振り回されるという感情があるなら『サンライズ』の映像構成はまさしくそうだ。

そしてムルナウの作品といえばカメラワーク。ムルナウ作品でカメラワークは『都会の女』の麦畑の移動カメラで衝撃を受けたが、『サンライズ』は湖畔あたりの沼地を歩き愛人の女のもとに向かう長回しのカメラワーク。男を捉えていた客観的カメラのはずなのに、ごく自然に男の主観カメラにすり替わってるのに非常に強く衝撃を受けた。
だが『サンライズ』の感想を書く上で絶対外せないのは映像合成。サイレント映画どころかトップクラスの合成表現演出。最序盤のリゾートの船の映像合成で既に上手いが、湖畔あたりの沼地から街の映像合成が浮かぶ場面から、街の車道から田舎にシームレスに移り変わる空想的な合成に飲まれる。薄く愛人の女の姿が美しくも悪魔のように男の身体にすり寄る男の心情と恐ろしい場面はゾクゾクする。

『サンライズ』はムルナウの表現した映像世界に感情豊かに引き込まれる恐ろしい作品だったが、昇る日の光の明るさを浴びて多幸感に包まれる作品だった。