イホウジン

サンライズのイホウジンのレビュー・感想・評価

サンライズ(1927年製作の映画)
4.5
欲望はカネで買えても、愛はカネで買えない

資本主義社会における恋愛の問題をテーマに据えたという意味で、今でも全く色褪せることのない映画である。
今作がおもしろいのは、「都会と田舎」という典型的な二項対立を用いながらも、それがどちらか一方を否定するために使われるものではないということだ。つまり、「田舎には都会が失ったものがある」的なありふれたノスタルジーに陶酔するのではなく、「田舎も都会も愛を生むことができる」というこの上ない全肯定的なメッセージが今作の肝となるのである。このことは中盤のコメディ展開から察することが出来る。ここで2人は大都会の中でデートを楽しむことになるのだが、別に都会の楽しみ方に慣れていない訳ではないようだ。むしろ、都会に生きる人間以上に都会的な娯楽をエンジョイしているようにも見える。同じ時代を描いているとはいえ、チャップリンのような「現代社会に適応できない者」が笑いの対象として描かれるのではなく、むしろ「完璧に適応した者」がそれとして描かれているのである。田舎の暮らしをバカにするのではなく、だからといって都会の生活を批判しないこのバランスが、今作を傑作たらしめる所以であるように感じる。
小道具の使われ方も見事だ。「もの」を介在して登場人物たちの心情が揺れ動き続ける。分かりやすいほど走りまくる犬や、物語の序盤を締めくくるトリガーになる花束などの使われ方も見事ながら、なんといっても葦の浮具の存在感が凄まじい。伏線回収的な面白さもあるが、あれが劇中における「誰のために生きるか」という問いを具現化させる役割をもっていて、今作の隠れたシンボルと言ってもいいだろう。
また、現代社会を生きる私たちにとっては、1920年代の大衆文化を学ぶ機会にもなる。信号のない交差点や撮影に時間がかかる写真,遊園地にダンスホールなど、まさにアメリカの当時の繁栄ぶりを身をもって感じることができる。

全ての出来事がシンプルにまとめられていた分、本当に細かい心理描写が飛ばし飛ばしになっていたようには見える。気にするほどの事でもないが、丁寧に振り返ると意外と事実関係が不明瞭になっているパートはある。

久々に何度も観たくなる傑作に出会えた気がする。楽に観れる尺で傑作ぞろいなのがサイレント映画の魅力の一つだ。
イホウジン

イホウジン