うえびん

マンディンゴのうえびんのレビュー・感想・評価

マンディンゴ(1975年製作の映画)
3.6
自由の国で自由を奪われた人びと

1975年 アメリカ作品

マンディンゴとは、南北戦争前のアメリカ南部で、白人たちが最高の黒人奴隷としていた種族、“血統”のこと。舞台は、南部ルイジアナ州の“人間牧場”。

アメリカはずっと黒人奴隷を外国から輸入していたが、それが禁止されると、奴隷をアメリカ国内で取引・売買するようになった。

そこでマクスウェル家の当主ウォーレンは、黒人奴隷たちを交配して繁殖させ、出来た子供を売ることで莫大な利益を得ていた。また、奴隷の持ち主たちは黒人女性を愛人にし、自らの妻にはそれを隠さなかった。しかも、 奴隷との間に生まれた子も平気で奴隷 として売っていた。

南部の白人たちは、黒人制度を正当化するために“黒人には魂 がない”と信じ、黒人を人間と見ずに、普通の医者ではなく獣医にみせていた。

こんなことが、つい160年ほど前まで、自由と民主主義の国アメリカで行われていたことには、ただ驚くばかりだ。当時のアメリカ人が、なぜ奴隷制を必要としたのかを調べてみた。


『国家の盛衰』(渡部昇一・木村凌二)


木村)「アメリカは歴史上、文明という段階を経ずに、野蛮から堕落へと走っていった唯一の国だ」。これは、二十世紀初頭のフランスの首相ジョルジュ・クレマンソーの有名な言葉です。フランス人から見れば、アメリカは文明のない野蛮国に映ったのでしょう。

 私は、40歳の頃から3、4回アメリカに行ったことがありますが、ローマやギリシアのように文化的に惹かれるものがあまりありません。若い時なら、ニューヨークの街を歩き、斬新的な芸術作品や実験的なイベントにワクワクしたかもしれませんが、当時の私の興味を惹くものはありませんでした。

 アメリカは文明という段階を経ずして、野蛮から堕落へと走っていったというクレマンソーの言葉は、何を意味しているのでしょうか。

 そのひとつは、奴隷制を指していることは明らかです。世界史的に見て奴隷制が存在したのは、古代のギリシア・ローマと近代のアメリカだけです。それ以外では小規模で存在していますが、大規模に発展したことはありません。なぜ、近代になってアメリカで奴隷制が復活したのか、逆に言えばなぜ奴隷制が必要だったのか。

 そこには、アメリカの「大規模農法(プランテーション)」が関係しています。奴隷制はアメリカ東海岸にイギリス人が入植した直後に始まったとされ、その後、南部、西部へ領土を拡大するなかで、奴隷は増加していきました。新しい土地を開拓すれば、大規模農園を経営するために奴隷を増やす、というのはローマと同じ図式です。

 なぜローマに奴隷制が生まれたのかと言えば、征服戦争で多くの属州を獲得したため、土地と労働力(戦争捕虜)が結びついた結果です。それに対してアメリカは、領土の拡大にともない、戦争捕虜の代わりにアフリカなど外地から奴隷を求めました。

 19世紀の段階で、ヨーロッパには奴隷制はなくなっていました。したがって、当時のヨーロッパ人からアメリカの奴隷制を見れば、非常に奇異で野蛮な世界に映ったのだと思います。



 マックスウェル家の息子ハモンドは、父のやり方が間違っていることに気づき、愛人のエレンを愛し、マ ンディンゴの若者ミードと友情を結ぶ。だけど、自らの妻がミードの子を妊娠したことで…。最後は、B級ホラーのような結末だったけれど、ハモンドとエレンやミードが、人種と立場を超えて心を通わせていく展開は見応えがあった。

ハモンドが身体に障害を持っていたり、妻の
ブランチが処女でなかったり、それに対する世間の偏見や差別も垣間見える。その後のアメリカで、有色人種や障害者に対する偏見や差別は薄れたようだけど、大規模農園の運営に奴隷商人が跋扈したように、現在は、大企業の世界展開(グローバリズム)に武器商人(ネオコン)が跋扈している。

歴史は繰り返す。だから歴史から学ぶべき。
つくづくそう思う。
うえびん

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