みかんぼうや

逆噴射家族のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

逆噴射家族(1984年製作の映画)
3.8
私が最も好きなミュージシャンの一人、向井秀徳(NUMBER GIRL / ZAZEN BOYS)が好きな映画として興味を持ち、制作には私が最も好きな邦画の一つ「太陽を盗んだ男」の長谷川和彦監督が関わっていて、しかも原案・脚本は「おぼっちゃま君」の小林よしのりということを鑑賞直前に知り、なんとも一筋縄ではいかないきな臭さ(誉め言葉)に鑑賞前から期待大。

そして、その予想通り破壊力は抜群。特に前半は、「家族ゲーム」(森田芳光)、「しとやかな獣」(川島雄三)に続く“ヤバイ家族”物の傑作かと思い、超高得点作品の香りがしましたが、後半はちょっとハチャメチャエンタメに振り過ぎてしまって、自分の好みとは違ったかな~、というのが正直な感想。ラストシーンは、“昭和のステレオタイプな幸せの形”に対する強烈なアンチテーゼ的で良かったけど。

物語は、とても真面目で家族思いなサラリーマン小林勝国が、昭和の成功とも言うべき夢にまでみたマイホームの購入から始まる。家族も大喜びで幸せそう。しかし、この家族、ハイテンションな母親、女子プロレスラーかアイドルかで将来を悩む娘、東大合格一筋で引き籠る息子と、ちょっとクセあり。とにかく真面目な父親の勝国は、この家族3人はノイローゼ(今、あまり聞かなくなりましたね)という名の現代病にかかっていると信じ込み、素敵なマイホームの生活でこの病気を治そうと試みるが、勝国の父親が新居に住み込み始めたことで家族関係は一変。家庭内戦争への火ぶたが切って落とされる・・・

ノイローゼと思っていた家族を思い過ぎるあまり、勝国自身がノイローゼ化していく話の展開はかなり面白く、また昭和邦画らしい、怪しい雰囲気は「家族ゲーム」や「しとやかな獣」に通ずるものがあり、かなり自分好みでした。

が、上記2作が最後まで徹底して、淡々とシュールで違和感溢れるヤバい家族像を見せ続けたことにそのブラックユーモアの面白さを感じ、個人的にかなり好みだったのに対して、本作は小林よしのり原案ゆえか、後半は漫画的な非現実的でかなりハチャメチャな展開になってしまい、個人的にはちょっと残念。

エンタメという意味では思いっきり振り切ってるし、「太陽を盗んだ男」のような内容であればこれくらいエンタメでも全く違和感はないのですが、家族物となると、もう少しシュールかつ地に足がついた内容のほうが、ブラックコメディ感があって良かったかな。

ただ、このあたりは完全に好みの世界なのと、あくまでも大好きな「家族ゲーム」や「しとやかな獣」と比べての話で、エンタメ作品としては十分面白かったです。

一応、“家族の幸せとは何か?”といった問いや “マイホームを持つといった形式的な幸せの形”に対するアンチテーゼ的なメッセージもあると思いますが、そのあたりを深く考える、といった肩肘を張るような作品でもなく、純粋にエンタメとしての勢いを楽しむことができる映画だと思います。
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