茶一郎

フリービーとビーン/大乱戦の茶一郎のレビュー・感想・評価

3.9
 滅茶苦茶。はちゃめちゃ。もはやフリービー&ビーンの刑事コンビは、犯人を追いかけるためには、逆走、ひき逃げ、当て逃げなんて気にしない。
 まず冒頭のカーチェイスから、この映画が何かオカシイことに気付きます。怪しいトラックをチェイスしながら、フリービーが走らせる車は(ビーン同乗)、工事現場を破壊し、道を逆走、道中の車には当て逃げ、最後にはトラックを横転させる。そして、そのトラックの運転手の死体を見て、「やっちまった」と言ってこの件はお終い。ナンダコレ!?
 この調子で今作『フリービーとビーン/大乱戦』は法律、規則なんて物ともしない、どころか責任を取らされることもない、フリービーとビーンのさらに無茶苦茶度が加速する走査線を映していきます。

 【粗筋】自由すぎる刑事フリービーと豆のように固い(真面目な)メキシコ系刑事ビーンのコンビは、賭博の元締めであるマイヤーズを追跡していました。ようやくマイヤーズを追い詰める証拠を見つけ出したフリービー&ビーン。しかしマフィアは、マイヤーズを口封じのために暗殺しようと殺し屋を次々に送ります。出世のために何とかマイヤーズを逮捕したいフリービー&ビーンは、マイヤーズを殺し屋から守る羽目になりました。

 つまるところ、この『フリービーとビーン/大学』は、カーチェイスによる破壊を軸としたスラップ・スティック・コメディ、いわばミュージカル部分を無くした刑事版『ブルース・ブラザーズ』なのですが、イマイチよく伝わらない。というのは、この作品のやり過ぎな暴力描写と、時折、顔を見せる乾いたタッチに、笑って良いものかと困惑するしかないからです。
 特に強い混乱を覚えるのは、フリービー&ビーンがトイレの個室で殺し屋を殺す場面。まだ用を足している殺し屋をトイレのドア越しに、二人がかりでハチの巣にする。そして、また「やっちまった」とばかりに、今度はコメディ的な気楽な音楽流れる。
 ナンダコレ!?このシリアスな暴力と、コミカルな喜劇との落差にただただ困惑します。

 どんどんと加速するカーチェイスと同時にカーチェイスという暴力の結果を映し、そして極めつけのラストにはこの事件の何とも皮肉な真相をスーパーボウルの歓声を背景に見せつける。え!?これってブラックコメディなの!?
 
 エドガー・ライト監督は、今作をバディ警官によるバイオレンス・コメディのエポックメイキングとして位置付け、自身の監督作で同じくバディ警官モノである『ホット・ファズ』では今作の影響を強く与えたそう。
 ボタン一つの掛け違いにより、どこか「怪作」と呼びたくなる今作ですが、後世の映画への影響を与え、公開から40年近く経った今の観客ですら許容できないオカシい印象を与える、まさに怪物的な一本でした。
茶一郎

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