Habby中野

裸の十九才のHabby中野のレビュー・感想・評価

裸の十九才(1970年製作の映画)
4.0
集団就職で東京に出た青年が、約50年前に引き起こした連続射殺事件。といっても、そんな前知識は自分にはなく、またそのようには描かれないためその社会に与えた衝撃や影響なんかはよくわからない。ただ、この映画が語らんとしていることがどのように大きなことなのかはわかる。
物語は事件そのものではなく、その背景。殺人を犯す人間の背後に存在する、これでもかというほど濃密な人生だ(それは事件の「経緯」とはちがう )。青年がどのように生まれ、育ったかを、親の代から濃く描き、彼がいかに働き、苦しんで生きて来たのか、いかに堕落していったのかを、あまりに生々しく苦しく、しかし同情をする隙さえ与えない距離を保ったまま、誰へでもない、言わばただ全てに対する哀しさだけを大いに語っている。
新藤が歴史の一事件から描き上げたのは、そこにある何か具体性をもつ社会的な問題ではなく(この個人的な人生の物語において、労働や家庭や社会的な問題などは話にならない。)、しかし我々が共感できる普遍的な人生でもなかった。
ただ強く投げつけられ、唖然とするしかなかったことに、ショックを受けた。
それに、彼の最後の、母への言葉はぼくを迷わせる。ぼくは「ごめん」と言うと思っていた。ちがったのだ。
何かに互換することのできない感情を憶えたけれど、特に解決方法が見つからない。
Habby中野

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