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空の大怪獣 ラドンのIkTongRyoのレビュー・感想・評価

空の大怪獣 ラドン(1956年製作の映画)
3.6
2023年一発目の映画は『空の大怪獣ラドン 4Kデジタルリマスター版』。

小学生のときにDVDで観て以来、約22年ぶりに鑑賞。

井上泰幸を始め、ミニチュア美術職人たちの技術とこだわりが結集された特撮の傑作だ。

2022年5月の「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」でラドンの特撮を復習していたので、そのジオラマを大スクリーンで観れて感動。


実は初のカラー東宝怪獣映画である本作は1956年の映画とは思えないほどクオリティが高く、改めて観て気づきがたくさんあった。

1950年代における佐世保、北九州、そして熊本の炭鉱文化をカラーで残している、歴史的に貴重な資料でもある。

当時の日本のエネルギーを支え、常に危険と隣合わせだった炭坑夫たちの姿は今ではみることができない。

そこに加え、朝鮮戦争などで活躍したF-86セイバーまでカラーで映し出されている。

沖縄なんてフィリピンや中国と同じ、アジアにおける外国扱いだ。


今から65年以上も前から地球温暖化の危険性をシナリオに盛り込み、ラドンやメガヌロンの誕生と結びつけているのは素晴らしい。その先進性に驚かされる。

ただの怪獣映画には留まらず、冒頭から殺人事件によるサスペンスなどがあり、徐々に話が大掛かりになっていく物語は興味を引く。

そしてラドンが起きてからの大迫力な特撮シーンの連続。実はラドンは2匹いたという終盤の絶望も、当時からすると斬新だっただろう。

伊福部昭さんの音楽もこれまたカッコよく、名曲だ。

ラドンを語る上で欠かせないのが特撮美術。
VFX主流の現代では既にオーパーツ化し、失われた技術となっている精巧なミニチュア特撮には度肝を抜かれる。

美術面で特筆すべき点は3つ:
・福岡市の岩田屋本店と、天神駅周辺の繁華街を完コピしたこと
・映画前年の1955年に完成したばかりの佐世保市にある西海橋(当時はアーチ橋として世界で3番目の長さ)を採用し、破壊するという革新性。
・阿蘇山の噴火をミニチュアで表現

特に天神のシーンにおいては、井上泰幸は実在する都市の建物、電柱、街頭、看板、線路、電車などを本物の写真と見分けがつかないほど精巧に作ったとのこと。

福岡出身の彼は細部について徹底したこだわりをみせ、綿密な計測とロケハン、スケッチによって、ディテールにこだわりまくった。

井上らが実際に博多を歩き、4日間かけて歩幅や敷石の枚数などを記録して図面を起こし、そして43日間かけて作った岩田屋の模型。

まさに偉人たちによる根性と職人技が生み出した、努力の結晶。その結晶がラドンによって瞬時に壊されてしまうのも、儚き特撮の美しさでもある。


新宿コマ東宝のこけら落とし上映作品でもある本作を、TOHOシネマズ新宿で鑑賞するのはなかなか感慨深い。

こうした邦画黄金期の古典を、2023年の令和に映画館で観られることに感謝しなければなりません。

しかし、4Kデジタルリマスターのおかげで映画が格段に綺麗になっていることが伝わる。特にヒロイン役の白川由美が本当にキレイに映っている。美人。

一方で、ラドンを操作するピアノ戦、ミニチュアや人形などがハッキリと見えてしまっているので、せっかくの特撮シーンが興醒める。

メガヌロンの気持ち悪さも強調されているのはいいことなのか悪いことなのか・・・
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