シゲーニョ

ドライヴのシゲーニョのレビュー・感想・評価

ドライヴ(2011年製作の映画)
4.3
10年近く前の話だが、当時の映画に単調な説明台詞が多すぎて辟易していた中、久しぶりに情景描写・心理描写に長けた「無口な」作品に出会えた。

ライアン・ゴズリング演じる主人公の台詞が極端に少ない。

正確にカウントした訳ではないが、冒頭&中盤の「逃がし屋のルール」の説明、エレベーター前での隣人アイリーンとの会話以外、その殆どが二言三言、そしてリアクションの感嘆詞ぐらいだ。

監督ニコラス・ウィンディング・レフンがインタビューで「雄弁なのはカメラであるべきで、口頭のコミュニケーションに重点は置かない」と語っているように、本作は登場人物の感情の移り変わりが、その表情・所作だけでしっかりと伝わってくる。

主人公がスーパーの駐車場でアイリーンの車が白煙をあげているのを目撃するシーンや、ムショ仲間にボコボコにされたスタンダードに出くわすシーンは、主人公がそこに向かって歩き出す等のアクション(=動作)はあるものの、台詞は一切無く、画面が突然カットアウトする。

しかし、場面転換直後に映し出された彼らの表情だけで、その間に「何があったのか」を、観る側にちゃんと語っているのだ。

アイリーンと息子ベニチオを車で家に送るシーンはその中でも印象的で、主人公が「寄り道しよう!」と提案した後、3人の心の内を表した沈黙のリアクションが、見事車内でのワンカットに収まっている。
(後部座席のベニチオの喜ぶ顔が、バックミラーに映る構図も秀逸!!)

この静寂の積み重ねによって緊迫感が醸成され、突然起こる「動的」なバイオレンスシーンがより強調されたと思う。

別れの口づけから右足での頭蓋骨粉砕に転じるエレベーターシーンは、マジで不意打ちを食らわせられたようで衝撃的だったが、個人的には、手打ちの握手と思わせて、髭剃りで大動脈ズバッ!の方が、より強く痛みを感じてしまった・・・。

最後に・・・

ジョルジオ・モロダーかヒューマンリーグのような80年代ティストのテクノスコアが多く使用される中、大団円で「ヤコペッテイの残酷大陸(1971年)」のテーマ曲「Oh My Love」が突然流れるなど、テン年代の映画らしからぬタイムレスな劇伴に多少戸惑ったが、観終わればフランスのCollege&Electric Youthによる2010年の楽曲「A Real Hero」が心地よく耳に残った。
劇中2度使われているが、アイリーンの主人公に対する思いが、この歌詞に代弁されている様に思う。

「♪〜大きな困難を乗り越えるには/強い意志が必要/不条理な要求に抗い/意思に反する行動を咎めながら/あなたは自分に課した目標を追求し続ける/そしてあなたは証明された/真の人間 真のヒーローであると〜♪」


ここまで書いて気がついたが、「ドライブ」って健さん主演の任侠映画(by 東映)みたいだな・・・(笑)