アキラナウェイ

さらば、わが愛 覇王別姫のアキラナウェイのレビュー・感想・評価

さらば、わが愛 覇王別姫(1993年製作の映画)
4.4
公開30周年、レスリー・チャン没後20年特別企画として4Kで上映されており、ご覧になられた方も多いので、4Kじゃない方を自宅鑑賞。

1993年第46回カンヌ国際映画祭にてパルム・ドールを受賞。監督は巨匠チェン・カイコー。

愛憎と時代の変革に翻弄された3人の男女の過酷な運命を辿る物語。

京劇の俳優養成所で兄弟のように互いを支え合い、厳しい稽古に耐えてきた2人の少年。成長した彼らは、 程蝶衣(チョン・ティエイー)と段小樓(トァン・シャオロウ)と名乗り、人気の演目「覇王別姫」を演じるスターに。女形の蝶衣は覇王を演じる小樓に秘かに思いを寄せるが、小樓は娼婦の菊仙(チューシェン)と結婚してしまう—— 。

彼らの幼少期。俳優養成所といえば聞こえが良いが、貧困家庭から身売りされるような形で寄越された子や身寄りのない子ばかりが集められた場所。蝶衣も母から身売りされるが、生まれつきの多指症では客が怖がると受け入れてもらえない。冬の寒空の下、母により6本目の手の指を出刃包丁で斬り落とされるシーンが壮絶。

京劇の為の台詞や動きを叩き込まれ、間違えれば、大人達から容赦なく暴力を振るわれる過酷な稽古。子供達の絆は自ずと深まるが、蝶衣と小樓との関係は一際特別だった。実の兄のように慕う心が、やがて深い愛情へと変わっていく。

大人になり、一躍大スターとなった2人。京劇の衣装、メイク、歌とその所作1つ1つに完全に魅了されてしまった。

女形の蝶衣を演じたレスリー・チャンの高い歌声は何処から出ているのよ!?地声??そして、男性ながらに男性に惹かれ渦巻く感情を押し殺した眼差しや表情の演技の切なさよ、儚さよ…。

小樓が蝶衣に惹かれるとはいえ、それはあくまで舞台上に限られた事。彼の思惑など他所に突如菊仙との結婚を決めてしまう。

もう、そこからの愛憎劇が凄い。

嫉妬心を露わにする蝶衣。菊仙も負けてはいない。男と女が同じ男を求めて火花を散らす。

然し乍ら、阿片に溺れ中毒症状に苦しむ蝶衣は「寒い、寒い」と震え、そんな彼を抱き締める菊仙の姿や、終盤で姫の役を奪われ舞台裏に1人取り残された蝶衣に上着を着せてあげる菊仙の姿には、憎しみの中にも情があったのだと確信させる。

京劇は現代劇の台頭により隅に追いやられ、文化大革命により民衆から糾弾される蝶衣、小樓、菊仙の3人の惨めな姿は居た堪れなくて目を伏せたくなった。

何とも壮大な愛の物語。

糸を紡ぐように感情の繊細さをミクロで描き、同時に時代の奔流をマクロで描く様にいたく感心した。