ポンコツ娘萌え萌え同盟

最後の攘夷党のポンコツ娘萌え萌え同盟のレビュー・感想・評価

最後の攘夷党(1945年製作の映画)
4.1
文明開化後の急速に変化する明治の日本と、そして攘夷党の亡霊の神風連。廃刀令への反発から起きた『神風連の乱』で生き残った士族・大葉慎吾を嵐寛寿郎が演じる。
本作は逃走劇と"転向"の物語なのだが、一方で本作が戦後直後の作品であること(1945年公開)、戦前で時代劇スタァの代表格でもあるアラカンが主演なのを含めて本作の"転向"の部分は更に強く感じる。
ただ嵐寛寿郎の活躍やヒーローを求めて観る場合には適さない。

さて"攘夷党の亡霊の神風連"と上述したが、それが文明開化後の士族の立ち位置と、攘夷論に根付いた神や思想の価値観にある。
江戸の世が終わり急速に世界が広がり変化した明治の世で、攘夷論の価値観はただの亡霊が徘徊しているにすぎない。
だからこそ転向要素が特に強く描かれる本作後半での神を信ずる身であっても外国人宣教師の一家と大葉の価値観の相違。そして時代と共に常に変化する自国と共に価値観は自らアップデートとする必要がある。だからこそ自ら士族の部分を断ち切って生まれ変わる必要があった。

本作の監督の稲垣浩は『無法松の一生』で無法松の走馬灯の場面を描いたのもあって、それが活きたのか『最後の攘夷党』の中盤にもそれっぽい場面がある。ただ本作の事切れは肉体の死というより個にある思想の死を走馬灯ともに演出だ。
他にも綺麗なオルゴールの音楽が流れる場面で凶行しようとしたり、雪と暖炉とツリーそして大葉の場面の重なって不協和音となる音楽の表現もよい。
前者は個人的に好きな演出なのだけど、後者の不協和音は約束をキーに価値観で揺れる大葉の心情の表現だ。