拘泥

灰とダイヤモンドの拘泥のレビュー・感想・評価

灰とダイヤモンド(1957年製作の映画)
4.5
ワルシャワ蜂起に失った亡霊たちに拐かされるそれぞれの死に損ないが終わった戦の中で,生き,死に続ける.その構造やショットの強度や神秘性といい,愛する『泥の河』に近い部分がある.またはアイルランドの独立を描いた『麦の穂を揺らす風』など.祝宴の影において,反独と反共と能天気が揺らめく.検閲の中で,1957年に,よくぞここまでのショットと構造を収めたものだ.

ホテルにおけるタバコの提示から自然に,しかし不自然なまでに現れる煙.それは何時もそこに無いかの如く無視される.煙立ち上る急拵えの軍隊ポロネーズを無視する和解の宣言はあまりにも不一致だ.この煙は,まあまず硝煙であろう.であれば,ジレンマの中で壊れたあいつが消化器を用いて可視の煙をばら撒いたことが簡単に理解される.つまり,無視するなという話だ.この映画はすべて無視するなという話だ.ワルシャワの残骸を無視するな.タバコの煙においてはアメリカ製かハンガリー製の選択が陣営に矛盾していたことも在った事を無視するな.宿命でなかったはずの宿命を置き去りに,独り身の笑顔のダンスと降りはじめた雨において,恐れずに軍靴の横を行ける事,雨でさえも楽しげな時になると知る事を無視するな.しかし乗らぬ黙示録の白馬,王子様なんてものをこれまでの全て無視して成立させることなんて,この男にはできやしない.二人を殺害したことを無視するな,マリアの目撃の下で.

誰一人として意にも介さなかった異なる愛国者の死の抱擁と,花火.そのワンカットはこの映画でも群を抜く.火とは,戦火とは,そんな綺麗なものだったか?序盤から木の美しさが目を惹いたその場所の名は,ポーランド.はためいたシーツの純白と純血はそれがそうだと綺麗にわからぬ様にしてあるが,いや当然ポーランドの国旗であろ.やせ我慢の上に踊り疲れた最後,国旗は街頭に掲げられたか分かりはしない.同胞への悼みと,一夜の思い出と,祖国への報われぬ愛は,死と共に消えて行く.灰の底のダイヤモンド,逆さ吊りのジーザスの足元で,神も贖いもない今,未来と夢を語ることは美しき哀しみになってしまった.
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