売れっ子役者の銀四郎(風間杜夫)は、5年に1度の大作映画『新撰組』の土方歳三役に抜擢されていた。この映画の名物は、終盤で土方が斬り付けたスタント役者が大階段を転げ落ちるシーンである。しかし命の危険を伴うことから、その役を受けるスタントが見つかっていなかった。
そんな折、銀四郎は恋人の小夏(松坂慶子)を自身の出世のため振ることに決め、子分である端役者のヤス(平田満)に彼女を押し付ける。ヤスは小夏のお腹にいる銀四郎の子どもの父親となる決意をし、ヤスと小夏の奇妙な新婚生活が始まる。
一方で銀四郎は、小夏を振ったことを悔やみ自暴自棄となっていた。その様子を見かねたヤスは、銀四郎に斬られ大階段から落ちる役を引き受ける。
【夏の陽炎が見せた夢なのか】
夏の定番な邦画。映像から古さは感じるものの、シナリオの面白さは色褪せません!
大階段のシーンを含めた劇中劇のみならず、登場人物たちの愛や痴話喧嘩を描くシーンの演出が大袈裟なくらい派手派手で、カラッと笑いながら観られて小気味良いです。
ヤスと小夏が惹かれてやまない男・銀ちゃんこと銀四郎の傍若無人っぷりに驚きますが、そのダメ男感が全体のテンションに拍車を掛けています。しかしラストシーンの銀ちゃんは本当にかっこいい!
そんな彼に銀ちゃん、銀ちゃんと引っ付いてばかりの下っ端ヤスは、かっこいい部類の男性ではないものの、自分の身分を弁えつつもしっかり知恵を振り絞って女を幸せにしようとしているのが最高に粋です!
小夏のために月賦で演出した小綺麗な部屋、なかなかロマンチックでした。
小夏と共に地元に帰郷するシーンのブラスバンドには笑った!
二人の男の間で揺れる…いや振り回されている小夏はずっと気の毒でした(笑)
初めは泥臭いヤスに嫌悪感すら抱いているものの、彼の純情な愛に押され、尖っていた口調やファッションが徐々に家庭的になってゆくのも見どころです。
銀四郎の今カノと会うシーンの黄色いワンピースが眩しい。しかも、そのまま前掛けつけてお料理始めようとしてるのがツボ。
ヤスは小夏を養うために何本もの作品でスタントの仕事を請け負うようになるのですが、それらの作品群に出てくるカメオ出演俳優がめちゃくちゃ豪華で面白かったです。
痴情のもつれも含めて、日本のアツい人情劇だなぁと思いながら観ていると、最後の最後でメタ的な要素が入ってきます。
このお話自体、夏の陽炎か何かだったのだろうか…と思わされる、奇妙な余韻も好きです。