ちょん

東京暮色のちょんのレビュー・感想・評価

東京暮色(1957年製作の映画)
4.2
初めての小津安二郎作品がこれで良かったの
かわからないがこれで良かった気がする。

杉山は坂を下り日々を続けていく。
娘2人が去っていったとて坂を下る姿が切ない。
お父さんちゃんと愛してたよ。

日々を生きる…というと意思があるような表現だが、意思の有無に関わらず嫌でも通り過ぎゆく日々に対する深い慈悲のようなものを感じた。
“これもまた人生だ”といったような。
小津は杉山のように人生を抱きしめて生きたのだろうか。
この作品を見ながら『PERFECTDAYS』のことがよぎったな。
(ヴィムが小津のことが大好きだということは特に意識せずみたが…)(彼らは人生の捉え方が似てる気がした)

明子は無念だった。
母のこと、堕胎のこと、父や姉からの愛に気づくこと、沢山のことが一気に押し寄せた中での事故死。(自殺かな?)
明子ならきっと全ての出来事を受け入れ人生を謳歌しただろうに。
けんちゃんやその周りのだらしのない仲間達との関わりも過去の古傷となって心にしまえたはずなのに。
ただ、宿った命とさよならしなければいけないのは辛い…相手がどんな男であろうと。
自分の中にもう一つの命があると強く自覚しながら過ごす日々は想像の何倍も尊い時間だろう。
誰もその点に関して寄り添わず(寄り添う余地もなく)沈没していく事実がリアルだけれど悲しい。
せめて、せめて…と思わずにはいられなかった。
明子が堕胎した後に赤子を映すシーンはなんとも残酷だった。

『東京暮色』と題されたが、暮色に沈んだのはなんだったのだろうか。
かつての母とその遺伝子をまざまざと受け継いだ明子だろうか。
なす術もなく愛した女達が1人また1人と自分の元を去った杉山だろうか。
愛してもいない男の元へ「うまくやるしかない」と諦念で腹を括り戻る孝子だろうか…


p.s.小津作品初めてだが、小津は女性崇拝、特に母親像を神格化したものとして見る傾向があるのかな?
母親がいないとダメなんだ的な…
宮崎駿に通ずるというか…なんかそういうものを感じた。これは直観。
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