ほーりー

東京暮色のほーりーのレビュー・感想・評価

東京暮色(1957年製作の映画)
3.7
実にその、まあなんと申しましょうか。やはり振り返ってみますと数ある小津監督の映画の中でも稀にみる暗い作品と申しましょうか、はたまた毛色の違う作品と申しましょうか。いや、まったく驚きましたねぇ。

と、野球解説者の小西得郎の口調で、小津監督の異色作『東京暮色』を。

Wikipediaの解説の通り、小津監督最後の白黒作品であり、山田五十鈴が唯一出演した小津映画である本作は実に稀にみる救いのない作品でもある。

デジタル修復版DVDパッケージの有馬稲子の物憂げな表情がこの作品の雰囲気のすべてを物語っている。

銀行員の杉山周吉(演:笠智衆)がある晩帰宅すると、長女の孝子(演:原節子)が幼い娘を連れて来ていた。

彼女の様子がおかしいので聞いたところ夫との折り合いが悪くて実家に戻ってきたという。

一方、父と同居している次女の明子(演:有馬稲子)も様子がおかしい。

叔母の重子(演:杉村春子)に理由を言わずに金を借りようとしたり、誰かを探しに遊び人の川口(演:高橋貞二)が住む安アパートや雀荘に足しげく通ったりしていた。

ある日、明子は雀荘の女主人・喜久子(演:山田五十鈴)と顔見知りになる。

初対面なのに自分のことをやけに知っているこの女主人を明子は不思議に思うが、もしかしたら自分が幼少の頃に家を飛び出した母親ではないかと疑う。

その後、行き付けのラーメン屋で明子は探していた男・木村(演:田浦正巳)とばったり出会う。

実は同じ短大に通っていた木村と肉体関係を持ってしまった明子は彼の子を身籠っていた。そのことを知った木村は会うのを避けるようになったので明子は彼を捜しに街をさまよっていたのだ……。

暗いというイメージよりは個人的には冷たいというイメージが強い。

確かに暮色というタイトルだけあって(英語題のTokyo Twilightがカッコいい)夜のシーンは多いが、人間関係の冷たさ、はたまたそこに流れる空気の冷たさみたいのを感じた。

まあそれでも相変わらず小ネタを仕込んで笑わせようとするところはあるので、やはりこの監督は基本的に笑いが好きなのだろう。

杉村春子が「どこだっけ?腰越じゃなくて……ブラゴエシチェスンク!」と思い出す場面。普通、そんな間違いしないだろと思うのだが、個人的にはこの辺りが小津映画の特色だと思う。

他にも劇中、高橋貞二扮するチンピラが小西得郎の物真似で明子の秘密を周囲にばらすシーンがある。
これも小津監督らしい時事ネタだが、単なるギャグにとどまらず、他人の苦しみを物真似で暴露して嘲笑する彼らの心の醜さが際立つ効果となっている。

時事ネタといえば菅原通済(本業は役者ではなくて経済人)が新聞を読んでいる場面もそう。
実際、売春対策審議会では会長を務め、売春防止法制定に尽力したこの人が新聞読みながら「売春防止法可決ねぇ」と呟くのも楽屋オチというかメタ的なギャグとなっている。

■映画 DATA==========================
監督:小津安二郎
脚本:野田高梧/小津安二郎
製作:山内静夫
音楽:斎藤高順
撮影:厚田雄治
公開:1957年4月30日(日)
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